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「その本からね、きっと、出て来たんだよ」
「へえ、アメイジング! 夢みたいな話ね」
「ほんとだよ、似ているんだから、瓜二つ」
少年少女の掛け合いを聞いているだけで、若返った気持ち。何時の間にか年を取った。楽しそうなお二人さんの邪魔もできないし、手を止めて、サッと箒で床の掃除を始める。
「今度、貸してやる」「パパも読みたい?」
そのT字の箒を奪い取り、ウインクする。ヤンチャな娘は俺の腰にタックルついでに、悪戯っ子にもクリップを幾つか掠め取ると、あっという間に栗毛の長い髪を纏めて挟み、くすくす笑い、無造作なアップスタイルに。
項の後れ毛の淡い色や、色白な首筋から、横顔の鼻の形まで、俺の嫁さんにそっくり。娘だから当たり前か。ヒヤッとさせないで。
「誰に似たんだ? ……俺か。返しなさい」
「ヤダ! いいじゃん、ケチケチしない!」
じっと見つめている蓮の気持ちが何故か、手に取るように分かってしまう、中年の俺。暴れ出したくなるような嬉しさと寂しさが、秒刻みで襲う幸せに目眩がしそうなんだよ。ジェラシーどころじゃない、不安で不安で。
一人娘が男心を分かっている訳もないが、無意識に純情を弄ぶ、乙女の魔性さに驚く。苦悩しているのは幼気な少年の方だろうか。
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