79人が本棚に入れています
本棚に追加
日陰の草花のプランターを日向に移して、観葉植物の間を縫って明るいところを探し、バカンス気分のレゲエのメロディーに乗り、花は踊るようなステップでフロアを横切る。
雨上がりの水溜まりを踏んで歩くように。水飛沫の羽根が上がった足取りは、軽やか。何か夢見がちな眼差しで、七色の光を浴び、逆光の窓辺で振り返った娘は、可憐なのだ。
少女の頃の妻を想う。瞳に面影を探して。
「肉体があると思うの。アンデッドなの!」
「花は好きだな、ゾンビ」「観に行こうよ」
「怖いのはイヤ」「蓮ちゃんも、パパも!」
大人気のリメイクされた古いゾンビ映画の話題を振って、花は楽しい遊びに蓮を誘う。邪魔者にならないよう返事は曖昧にすれば、困ったように眉を下げた少年の頭を撫でる。
何を言わなくても視線で分かち合う男心。ゾンビが怖いのかも知れないが、縋る視線。俺もグロテスクなホラーは、ちょっと苦手。ここは触らぬ神に祟りなし。見守ろう……。
「ゾンビはイヤ」「じゃあ選んで、選んで」
デートスポットを雑誌で調べていたのか。なーんだ。蓮と観に行くのか。初々しいね。
花に腕を引っ張られた蓮の背中を見送る。ケープを着たままのオバケみたいな後ろ姿。その背中が燥いで、嬉しそうに見えるのは、フィルターが掛かったせいじゃないはずだ。
最初のコメントを投稿しよう!