Un♤Papa

7/11
前へ
/30ページ
次へ
 日陰の草花のプランターを日向(ひなた)に移して、観葉植物の間を()って明るいところを探し、バカンス気分のレゲエのメロディーに乗り、(ハナ)は踊るようなステップでフロアを横切る。  雨上がりの水溜まりを踏んで歩くように。水飛沫(みずしぶき)の羽根が上がった足取りは、軽やか。何か夢見がちな眼差しで、七色の光を浴び、逆光の窓辺で振り返った娘は、可憐(かれん)なのだ。  少女の頃の妻を想う。瞳に面影(おもかげ)を探して。 「肉体があると思うの。アンデッドなの!」 「花は好きだな、ゾンビ」「()に行こうよ」 「怖いのはイヤ」「(レン)ちゃんも、パパも!」  大人気のリメイクされた古いゾンビ映画の話題を振って、(ハナ)は楽しい遊びに(レン)を誘う。邪魔者にならないよう返事は曖昧(あいまい)にすれば、困ったように眉を下げた少年の頭を撫でる。  何を言わなくても視線で分かち合う男心。ゾンビが怖いのかも知れないが、(すが)る視線。俺もグロテスクなホラーは、ちょっと苦手。ここは(さわ)らぬ(かみ)(たた)りなし。見守ろう……。 「ゾンビはイヤ」「じゃあ選んで、選んで」  デートスポットを雑誌で調べていたのか。なーんだ。(レン)()に行くのか。初々(ういうい)しいね。  花に腕を引っ張られた蓮の背中を見送る。ケープを着たままのオバケみたいな後ろ姿。その背中が(はしゃ)いで、嬉しそうに見えるのは、フィルターが掛かったせいじゃないはずだ。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加