Ⅰ マーラトンの祭典

2/2
前へ
/19ページ
次へ
「マーラトン……つまりは長距離走ですな。そういえば、アルカーニャはその祭を毎年開いているというのでも有名だったか……」  祭を盛り上げるアーチ飾りを眺め、メデイアの代わりに再びアゥグストが口を開く。 「そう。今はプロフェシア教の祝祭に変化しているが、もともとは古代イスカンドリア帝国の時代、あのパンテオン山に住まう異教の神に捧げる競技として始まったものらしい」 「ですが、ただ長距離走を見物しに来たというわけでもないでしょう? やはり、新たな団員(・・)をスカウトするおつもりなのですか?」  アゥグストのその言葉にハーソンが捕捉説明を加えると、重ねてメデイアが核心を突く質問を改めて彼にぶつける。 「ああ。伝令官(メッセンジャー)も一人ほしいと思ってな。それに足の速い者は何かと便利そうでもあるし……」 「なるほど。それで帝国内外の各地から足自慢の者達が集まるであろう、このアルカーニャのマーラトン祭を見に来たというわけですな」  すると、愉しげにニヤリと笑みを浮かべてハーソンがそう答え、それにアゥグストも納得といった様子で大きく頷いた。  彼らのやりとりからもわかる通り、羊角騎士団の三人がこの地を訪れたのは、なにも物見遊山のためではない……。  白金の羊角騎士団は、伝統と各式ある由緒正しき騎士団でありながらも、長い歳月の間に有名無実し、いまや貴族の師弟が箔を付けるための名誉職的な団体へと化してしまっている……というのが近年の実情だ。  そこで、中流階級出身にして帝国一の騎士〝聖騎士(パラディン)〟に叙され、羊角騎士団長にも大抜擢されたハーソンは、現在、神聖イスカンドリア皇帝カルノマグノの(めい)により、この騎士団を真の精鋭部隊とするべく、優れた人材を求めての行脚(あんぎゃ)の旅の真っ最中なのであった。  また、本来、羊角騎士団は護教のための修道騎士団であるのだが、大海洋国家エルドラニアの国王でもあるカルロマグノは、遥か海の向こうに発見した新たなる領土〝新天地〟の海賊討伐を彼ら騎士団に期待しており、より広い分野での人材登用をハーソンは必要としているのだ。 「と言っても祭を観るのは初めてだからな。祭は明日だ。とりあえず宿をとってから情報収集といこう」  ともかくも、そんなわけで今度はこのマーラトン祭に才気ある新団員との出会いを求め、華やかに彩られた街の門をハーソン達は悠然と(くぐ)った──。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加