アオノヒカリ

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 翌日、光咲は学校が終わったあと、心春と一緒に学校を出た。ライブまで時間があるからちょっと時間を潰そうと心春に言われて、ライブハウスがある駅の近くで時間を潰した。「あまり歩くのも大変だね」という心春の気遣いでカフェに入った。今日の授業の話から、今日見るバンドの話など話題は尽きなかった。  心春の話によると、心春の好きなバンドは『(あお)』という。メンバーは四人で、結成してもうすぐ一年。心春はヴォーカルの「ヒロ」という人が好きなのだという。他にはギターの「サトル」、ベースの「シン」、ドラムの「ダイキ」。聞いただけでは覚えられる気がしなかったので、一旦『蒼』というバンド名だけ覚えておこうと光咲は思う。心春曰く、「ヒロさんの才能がすごいからもっとみんなが知っていけばきっと売れる!」「それに、ギターもドラムもすごく上手いの!」だそうだ。ギターとドラムの上手さを聞き分けられる自信はなかったが、心春はうきうきと『蒼』というバンドの良さを語った。  光咲は、心春と遊びに来るのも初めてでクラスでもほとんど話したことはなかったが、意外なほど話しやすい。話を聞いていると、心春はよくクラスメートを見ていることがわかる。あの子はあのときこうだった、あの子はこういうのが好きだから等、いくらでも話が出て来た。 「戸口さんって、すごいね」  光咲は率直に感想を述べると、心春は心底意味が分からないというような顔をして、「心春でいいよ、私も光咲って呼ぶ」と言った。そういう距離の詰め方も、上手いなあと光咲は感心するばかりだった。 「今のクラス、良いよね。嫌な子いないし、せっかくあと一年もあるんだし、みんなと仲良くなりたくて」  同じクラスになるってある意味縁でしょ、心春はそう言って、カフェモカを口にする。 「そんなこと、考えたこともなかった」 「光咲はそれどころじゃなかったからでしょ。クラスにはもっと光咲と仲良くなりたいって思ってる子もいると思うよ。私みたいに」  そう言って心春はにっこり笑う。なんて答えたらいいかわからず微妙な表情をしてしまったが、そう言われて悪い気はしなかった。  いい子だな、と思う。光咲も、普通の高校生活をしていたら、心春のような女の子と友達になって、放課後遊んだり、他愛のない日々の会話を楽しんだり、そんな毎日を送っていたのだろうか。  そろそろ行こうかと心春に言われて、光咲も続けて立ち上がる。時間は四時半を回ったところだった。ライブは五時からで、もうオープンしているはずだ。  カフェから歩いて五分ほどでそのライブハウスはあった。大きな通りから一本奥に入った路地に、小さな扉がある。その扉の前に、黒板を小さく切り取って木枠をはめた、メニューボードのようなものに今日のライブの情報が書いてあった。間違いなくここだ、と光咲は改めて建物を見る。ぱっと見はなんの建物かよくわからなかった。黒い壁にライブハウスの名前が大きく入っているが、「音楽」を表すような装飾もなければ、ポスターなどもない。  心春が扉を開けて入っていく。光咲は慌ててそれに続く。  扉を開けると、店内の壁にはポスターがずらりと並んでいた。見たこともないバンドばかりだったが、おそらくここのライブハウスに出ているバンドなのだろう。扉からすぐのところに受付があり、スタッフが座っていた。 「心春、二枚で予約してます」  心春が受付に声を掛けて、支払いをする。光咲は、慌てて自分の分を出す。今日のチケットと、ドリンクチケットを渡される。  ドリンクどうする? と心春に聞かれるが、さっきカフェで飲んだばかりだし、後にすると答える。心春は、「欲しい時は取ってくるから声かけてね」と言って自分の分を交換しに行った。両手に松葉杖をついてる今、ドリンクをもらってライブ会場に入るのは確かに少し大変そうだった。心春の気遣いがありがたい。  ドリンクを片手に心春が戻ってきて、「入ろうか」と声を掛けてくる。光咲は頷いて、松葉杖を持ち直す。
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