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 母とわたしのあいだに、目には見えない厚い隔たりが、徐々に、確実に、できあがっていった。  母の愛が重たければ重たいほど、逆に強く自己を確立していった。 「反抗期なんだよね。言いたいだけなんだよね」  母は、イラ立つ自分を落ち着けようとするかのように、静かな口調で、問いかけてくる。 「そうじゃないよ。お母さんと価値観がちがうから、そうは思わないって言ってるだけだよ」 「そういうのを、反抗期っていうんだよ」  母の目は笑っていた。子供を見下そうとしていた。  母のために生きいるのではなく、自分のために生きてる。だからやりたいことをするし、必要ではないことはしない。母に流されては、人生を妥協することになる。  「お母さんを困らせたいだけでしょ」  最後、母の台詞はいつもこれに着地する。  母の中ではなぜか、わたしの行動理論は、母を通してでしか存在していないかのようになっている。  勉強しないのも、昼間学校に行かなかったのも、行くようになったのも、彼氏と夜中抜け出すのも、母は関係ない。全部、やりたくてやってることだ。  母と話していると、いつも頭がどうにかなりそうになる。
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