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 そこまで悪いことをしているわけじゃない。  誰に迷惑をかけているわけでもない。  だが、好きに行動していると、母が勝手に傷つく。ほっといて欲しいのに、わたしのせいで、勝手に母の心が蝕まれていく。  では、わたしがやりたいことを我慢すればいいのかと言うと、それではわたしの心が蝕まれていく。母のせいで、誰かのせいで、自分が制限されるというのが、たまらなくいやだった。自分を制限してくる相手を、憎みさえする。  子供の頃は、母の支配下にいた。   母のやんわりとした強制で、始めた習い事がいくつもある。  しんどくて、もうやりたくない、やめたいと伝えるたびに、母は、 「辛く苦しい壁こそ、乗り越えた先に光がある。辛いと思ってすぐにやめていたら、やめ癖がつくダメ人間になる。あんたはダメ人間になりたいの? それとも立派な人間になりたいの? どっち?」  そんな究極の二択をいつも迫ってきた。  子供のうちからダメ人間を目指すわけにもいかず、「立派な人間」を選んでいるうち、やりたくないことをし続け、でも結局やりたくないことは興味がないことなので、やる意味を見いだせず、最終的にはやめることになる。  そんな試練の山のような、またはゴミくずのような習い事を、いくつもかけもちした。  自分でやってみたくて、やらせてもらった習い事もあった。  しかし、わたしが好きで始めた習い事に、母の関心はなかった。  続けても喜んでもらえず、なにか作り上げても才能がないと言われ、結局、そのうち勉強が忙しくなって、その習い事もやめた。  高校生になって、あのとき才能がないと言われた絵を、なぜかまた描きたく なった。  お母さんにお願いして、最近まで日曜日はデッサン教室に通わせてもらっていた。週一その日の充足感は半端ないものだった。学校にはまるでいない、話の合う友人もできた。  だけど三年になったから、デッサン教室もやめなければいけなかった。  
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