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 わたしが子供の頃。  母はネグリジェのまま、マンションの階段を延々と上っていた。  手すりしかない、身を乗り出せばすぐに地面へ落下する、茶色い塗装のはげた階段を。  父と一緒に階段をのぼり、母を何度も迎えに行った。  迎えに行くと、それまでは狂ったように叫んでいた母も、ほとんど何も言わず、抜け殻のように大人しく、わたしに手を引かれて、そっと階段を下りてくれた。  母はいつも、ひとつしかないおいしいものは、必ずわたしに食べさせようとした。自分はいらないのだという。  母はいつも、勉強しなさい、と言う。しかし母自身が、勉強をしているところを見たことがない。母は、自分を高める努力をしないのに、なぜ子供には強いるのか。いつも疑問だった。  母が父に、お父さんもゆきにたまには勉強しろって言ってよ、と怒鳴り散らすが、父はいつも、適当に母の話を流しながら、自分の趣味と仕事と勉強に打ち込んでいた。  母だけが一人、いつも何かわめいていた。  わたしが母に言い返すと、最近の子はキレやすいと、被害者面するくせに、自分だけはわめいても許されるのだと思っているようだった。  わたしは、母と言う生き物は最悪だと判断した。将来、母親と言う生物にだけは絶対なるまいと、小学生の頃には心に決めた。母親になんかなってしまったら、人生は終わる。  だからさ、お母さん、わたしは子供ができる可能性のあることは、絶対にしないんだよ。
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