あの子

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 翌日、久恵と町に出る。久恵の運転だ。町とはいってもスーパーが何軒かあってホームセンターがあって、ショッピングモールがひとつあるだけの小さな町だ。祐樹と久恵は喫茶店に入った。 「久しぶりだねー。元気にしてた?」  久恵は長い髪を耳にかけて訊いて来た。 「うん。作業療法士をやっているよ」 「じゃあ東京で?」  大きな目が相変わらず美しい。 「うん。おばあさんには田舎に住めって言われているけどその気はない。好きな子もいるし。看護師なんだ」  祐樹はストローでコーヒーをかき混ぜた。 「ふーん。相変わらず手が早いんでしょう。私のときもそうだった」 「え、それは勘違いだよ。そうだ、久恵さん、昨日言っていた意味のある日ってどういうこと?」 「私、祐樹くんとの子供、身ごもっていたの」 「え?」 「でも私たち高校生でしょ。産婦人科に行って堕胎したの。夕立が凄い日だった」  そうだったんだ。じゃああの男の子は。生きていればあの子くらいか……。祐樹は総毛だった。 その帰り祐樹と久恵は水子地蔵が置いてあるお寺に寄った。 「お父さん、また待っているからね」  風の悪戯か男の子の声が聞こえた気がした。   終わり
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