あの子

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 門には鍵が掛かっていなかった。もっともこんな田舎では玄関の鍵も掛けない家がある。隣の家までは徒歩三十分はかかるが、祖母以外は免許を持っているので生活には、そうそう困らないだろう。  玄関の鍵は持っている。祐樹は引き戸を開けて中にいるだろう母に声をかけた。 「母さん、帰ったよ。祐樹だよ」  中から懐かしい声がした。 「お帰り、祐樹。居間でお父さんも待っているわよ」  父もお盆休みなのだろう。挨拶をしなければいけない。祐樹はスニーカーを脱いで玄関をあがった。左に曲がって廊下を進むと右側に居間がある。襖を開けると父が座卓を前に正座をしていた。 「父さん、帰りました」 「ああ。仏様はもう迎えに行ってある。仏壇に挨拶して、ゆっくりくつろぐといい」  父は五年前に見た父とそう変わらないように見える。  この土地の迎え盆は八月十三日だ。今日だ。今は午後三時だから早い時間に母がお寺に行ってきたのだろう。祖母は家の中くらいしか歩けない。父は昔からそういうことは女に任せている。
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