あの子

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 夕飯は父がいた和室と違う和室で食べる。祖母を上座に座らせて、廊下側に父、母。向かいに叔母だ。今日は祐樹が叔母の横に座った。ご飯はお膳の上に煮物、焼き魚、白和え、茶碗蒸しと乗っていて豪華だ。母は祐樹が帰ってきているから手の込んだ料理を作ったのではなくて普段からこんな料理を作っているのだろう。祐樹が東京に出る前も豪華な食卓だった。 「祐樹、東京での仕事はうまくいっているかい?」  祖母が言う。祖母はいつも着物だ。今日も紺色に白い花が散りばめられた浴衣を着ている。 「はい。いい先輩の下について順調にいっています」 「そうかい。ここから通えるところの病院には勤められないのかい?」  実家から一番近い総合病院は車で一時間半かかる。一時間行ったところの町にはクリニックはいくつかあるがクリニックでは作業療法士を必要としないだろう。 「ここに住んでいたら無理です。仕事ができません」  もとより祐樹は田舎で一生を終えるつもりはなかった。東京で働いて東京に家庭を持つこと。こんな田舎では自分が腐ってしまう。 「だから、文雄と同じ職業につけばよかったんだよ。今からでも遅くない。大型免許をとってトレーラーの運転手になるんだ」  文雄とは父だ。父は町の運送会社で働いている。祐樹は話題を変えたくなった。
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