あの子

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 八月のお盆休みに久しぶりに実家へ帰った。五年ぶりだ。実家は山の中でスーパーへ行くのも車で三十分かかる。それでも祐樹(ゆうき)の小さい頃に比べたらまだましだ。祐樹の小さい頃は一時間も車を走らせないとスーパーは無かった。  実家には父と母と祖母と叔母が住んでいる。叔母は結婚して一度実家を出て行ったのだが、子供を亡くし、離婚して戻って来た。子供は祐樹の従弟にあたる。小学校四年生でお盆に川で遊んでいたときに溺れ死んだ。帰省しているときだった。見つけたのは従弟が帰らないのを不審に思った叔母だった。それを機に叔母はふさぎ込むようになり夫も出て行ったのだと思われる。  実家は田舎の古い豪邸だ。瓦屋根付きの門があり、家も黒い瓦屋根で壁は白い。一階は台所と居間に和室が二つ、納戸があって、二階は和室が三つだ。祐樹の部屋もまだ二階に残っている。叔母の部屋も二階だ。従弟と部屋を共にしていた。  祐樹は二十八歳だ。東京で作業療法士として働いている。勤務先は大学病院だ。彼女はいないが精神科の看護師に思いを寄せている人はいる。デートもしたことないのだが、彼女はとてもいい子だ。名を真麻(まあさ)という。真麻には実家に帰ることを伝えてきた。お昼休みの話題にお盆休みの過ごし方があがったからだ。
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