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「まあ……、まあまあ、まあ、なんていうのかしらね、り、凛子さん、済んだ物事を責めるだけなら誰にでも出来るわよね。そうよね?」
随分と時間を置いてから、淑子は自分の胸に手を当てた。
「そうですね……。そうかもしれません」
凛子は肩から力を抜いた。これだけのセリフを言うのに微かに指が震えている。
「あの子も今から頑張るのよ。嫁業をね。きっと凛子さんなんかよりも逞しくなって、また顔を見せに来ると思うわ」
そう言いながら、隣の椅子に置いてあるバックを手に取る。
「……姫子さん、当分はご多忙で帰省なんて難しいんじゃないでしょうか? リンゴ農家なんですよね?」
「そうよ。でも私は信じてる。子供の事をね。どんなに時間がかかっても、姫子ならやり遂げるって」
「……」
「お茶、美味しかったわ。ご馳走様。また姫子が帰ってきたら三人で会って食事でもしましょうねぇ、凛子さん」
義母は笑った。不敵に。
「……ええ。その時が楽しみです」
何よ? その笑み? 挑んでるつもり? ならば受けて立ってやろうではないか。
逃げる気なんてないから。
それじゃ、あの家に居た時と同じになってしまうから。
「それじゃあ、失礼するわね。本当は聡の顔も見たかったけど。……凛子さんたら、まー、あのお友達の影響かしらねぇ」
亜美の事を言っているのだろう。
最後まで口を閉ざすことなく、義母は去ったのだった。
「……亜美は悪くないし! しかも、嫁業っていつの時代なのよ?」
閉まった玄関ドアに向かって凛子は呟いた。
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