プロローグ

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プロローグ

凛子は、幸人のランドセルをそっとソファの上に置いた。掃除機をかけるためだ。 しかし、波乱の幕開けとなる産声をスマホが上げたのは、その瞬間だった。 『ねーえぇ、りんこさーん、 わたしー、ちょっとお話したい事があるの! だから日曜日そちらへ行ってもいい? あ、私だけじゃなくてもう1人いるんだけどねっ!』 相も変わらずの甲高い声だ。 真夏の猛暑日。姫子からの電話は久しぶりだった。この人はいつも唐突なのだ。 「姫子さん、お久しぶりですね。え? そうなの? 何か素敵なご報告かしら? ええ、そうね。午前中なら大丈夫です。午後からは予定が入っていて……ごめんなさい。ええ。楽しみにしてます。では」 通話を切ってから、しばらく自分のスマホをじっと見つめる。 『姫子さん』と入っている記録を全て消してしまいたい。いや、いっその事、記憶ごと抹消してしまいたい。 あれから数年。 平和が続いていたのに。何を今更、会う必要があるんだろうか? ちなみに「午後から予定がある」と言ったのは嘘だ。早々に帰っていただきたいから思わず口から出てしまった。 姫子さん……あれから義母が出入りしてる間は男性関係も落ち着いていると聡から聞いてはいたが……。 働きに出ているんだろうか? それともまだ親のスネを齧ってる? 今だからこそ思う。 全ての諸悪の根源はお前だったと。姑も確かに忌むべく存在だったが、姫子の嫌がらせは今も忘れたことがない。 図々しくも電話ではもう1人連れてくるような事を言ってたけど、もしかして……? 嫌な胸騒ぎがする。 聡が帰ったら聞いてみよう。 凛子はため息をついて、掃除機をかけ始めたのだった。
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