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「その、バンドって食べていけるんですか? 年収はお幾らくらい……?」
「ちょっと、変なこときくのやめてよ!」
姫子は目くじらを立てた。
「だって、母さんは絶対に訊ねるぞ?」
「もー、そーゆーの面倒なのよね」
面倒……。
結婚は現実的な生活なのに。お金は一番の問題だろうが。
凛子は大我を改めて見る。どう見てもまともな社会経験がなさそうだ。高校を卒業してからそのままバンド路線? なのかしら?
いや、姫子も似たようなものか。だとしたら、心配なのは娘さんの星願ちゃん。彼女は今どうしてるんだろうか?
「ね、姫子さん。星願ちゃんは元気?」
「元気よ? 部活で毎日頑張ってるわ」
強気な目で凛子を見る姫子。
「へえ。何部に入ってるの?」
「んー、テニスかな」
かな、ってなんだ。
「受験もあるし大変ですよね? 塾とか通ってるんですか?」
和やかにきいてみる。
「んー、塾に行きたいって言われたけど却下したの。ほら、お勉強だけが出来ても今どき仕方ないじゃない? それより就職したほうがいいと思うし」
子供の熱意を却下したのか。そして自分たちは結婚式なのか。
「俺も言ったんすよ。大学行ってもいい事ねえって。親のスネかじって大学行くなら社会人になった方がいいっすよね?」
ツンツン頭が、どの口で言うんだ。
「そ、そういう考えもありますよね……」
「姫子、俺は反対だ」
たじろぐ凛子とは真逆に聡は強く言い放った。珍しいじゃないか。
「えー! なんでよ? 自分たちはさっさと結婚してさ。なんで私の事反対するの?」
「星願が微妙な時期だろう。大切にするのは子供のことが一番だと俺は思う。大我さん、今は少し待ってみてもらえませんか? あの子が成人するまで」
聡は真人間だ。普通の人間が考えることだと凛子は思った。
しかし、相手は姫子だ。姫ちゃんなのだ。
「よくそんな酷いこと言えるわね? 私の幸せはどーでもいいってわけ?」
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