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姫子は、まるでラクダの一歩手前のようなまつ毛をしばたかせた。
「いつも正論ばかりでさ、私の事なんて何一つ思ってないくせにそういう事だけ言うのやめて」
それを言うなら、いつもバカっぽい格好で何も考えずにこちらへ来るのをやめて欲しい。
「あーあ、お邪魔したわね。とりあえず星願に会わせるから、それまではおかーさんには黙っててね!」
姫子は大我と立ち上がると怒りの足音を立てて帰って行ったのだった。
残された茶菓子と珈琲。
凛子はため息をひとつつくと、これからの義母さんがどう出るか考えを張り巡らせた。
あの男性は有り得ない。連れていったら腰を抜かすに違いない。無論、受け入れないだろう。
義父の様子を見ながら老夫婦で生活をなんとかやっているのに……そこへこんな案件……考えただけで同情心が芽生えるではないか。関わりたくはないけれど。
「ね、聡、どうなると思う?」
「姉さんは一度言い出したら聞かないからなあ。星願は追い出すかもな」
聡は髪の毛をかきあげる。切るタイミングを失い、少し長くなった前髪は最近までの仕事の多忙さをあらわしていた。
「追い出すって?」
「姉さんをだよ」
「え!?」
「星願が母親を追い出すんだよ」
どういう事? 子供が親を追い出す? そんな事あるわけない。だいたい、星願ちゃんはそんな事出来る子じゃないと思う。
「まさか」
「凛子は知らないんだよ。星願が、ほんとはどういう子供かってことを」
凛子は胸の内がざわめいた。なんだろう。この不安な気持ちは? 子供に追い出されるだなんて、まさかね。
まさかね。
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