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実は、あのお披露目会で自分のワンダフルなドレス姿を見せた後、大我には「結婚は無しで」と言おうと思っていた。なのに星願が最後にあんな暴露をするから、逃げるようにここへ転がり込んだのだ。
心の中でひっそりとそう決めていたのにっ!
「ほら、草がここにまだ残ってるべ!」
すっかり髪の毛を黒くした大我は、麦わら帽子を被り、リンゴを目の前にして別人のようだった。あのバンドマンとしての覇気はどこへいったのか。
こんなの、私の好きな大我じゃない!
絶対に実家に帰ってやる!
その時、ふわりと風が舞った。果実の甘酸っぱい匂いがして、姫子は目を瞑る。なんて良い香りなんだろう。
「……星願に……」
「ん?」
「会いたい……」
その時、口から出た言葉は自分でも思ってもみないものだった。
私も頑張るから、ひめちゃんも頑張って――
そう言われて送り出された最後。
次、会う時はいつかな。
今度はいつ、実家へ帰れるだろうか?
「ひ、姫子、おめぇ、泣いてんのかっ?」
「え……っ」
気が付かない内に涙が頬を伝っていた。やだ、故郷が恋しくて……?
いや、星願に会いたい。離れたのが悲しいのだ。
「おいおい、泣くなや。俺がいるから」
そう言って、大我は優しく姫子の肩を寄せた。彼からこれまたフワリと良い匂いがするではないか。姫子はしばらく涙が止まらなかった。こんなに子供と離れるのが辛いだなんて思わなかった。
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