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「え?」
妹が驚いた声をあげたが、目の前にいる男性から目が離せない。優しそうな瞳も、最近リップをつけ始めた唇も、少し角張った手も全てが私の彼氏である旭くんそのものだ。その彼が加奈と手を繋いで、私の実家のチャイムを鳴らした。
「どういうこと……はっ」
ある結論に思い至った私は、ドアを閉め、加奈の肩を掴む。
「この男と別れなさい!」
「え、おねぇ」
「この人は……この男は、私とあなたで二股してるの!」
血の涙が流れそうな程、目が熱い。泣きたいけれど泣きたくなるのは妹も一緒だ。私1人で打ちひしがれる訳にはいかない。
「姉妹に手を出す男なんて、そんな男はどうしようもないクズなんだから」
自分の身を削ってでも、幸福で愛に溢れた思い出を闇に葬ろうとも、妹を守らなければならない。加奈はすでに声をなくして、目を見開いていた。
「おねえちゃん」
震えた唇から掠れた声が漏れ出た。
「違うの。彼は」
「違わないの。私と彼は付き合っていて、いえ私がキープだったのね。ともかく私は恋人だと思える付き合いをしてたの。待って証拠を」
ポケットに手を入れるが、スマホがない。あぁ、玄関に向かう時にテーブルの上に置いたのだ。写真を見せたくても、両親に見つかってしまう。繊細な彼女たちに姉妹の悲劇を知られたくない。私はどうすることもできず、呆然と彼女の肩を掴んでいると、その手が離されて、覚えのある温もりを感じた。
「由奈ちゃん。違うんだ。僕はレンタルなんだ」
「レンタル?」
「そう、レンタル彼氏って聞いたことあるでしょ?僕はそれなんだ」
「そうなの。お姉ちゃん、だから二股じゃないの」
逆に妹と旭くんに詰め寄られた。
「つまり私はあなたをレンタルしていただけってこと?」
いつからだろう。旭くんがぽやぽやオドオドしていた時から?それともかっこよくなっていった時から?あまりにも人恋しくて無意識にレンタルしていたのだろうか。彼と出会ってからの思い出が走馬灯のように流れ、一つの疑問が浮かぶ。
「私、お金払ってない。加奈、どうしよう。このままじゃ万引きとか債務不履行とかになっちゃうかも。お姉ちゃん、捕まっちゃう。あなたもお母さんもお父さんも……ぼんやりしている割に暴走気味なのに、私がいなくても大丈夫かなぁ」
とうとう涙がこぼれ落ちた。
「由奈ちゃん、話を」
「旭くん!」
「うん。あのね」
「今からでも払うから。いくら払えばいいの?相場はどれくらいなの」
何度ポケットを探ってもスマホが出てこない。必死に探す私の体を旭くんが抱きしめた。
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