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「今までずっと私を騙してくれたの?」
学校の屋上で、綺麗な女の子は震えている。涙は頬から流れ落ち、髪も乱れている。
「騙すなんで、俺、最初からお前一人と付き合うって言った覚えはないぞ。しっかり確認しなかったのはお前のせいじゃん」
女の子の名前は伊藤あかり。容姿端麗、才色兼備、お金持ちプラス美少女の設定は無敵でも言えるだろう。クラスのみんなは伊藤のことが好きで、先生さえ彼女を多少尊敬しているようだ。
しかし、こんな彼女が今、地面に座り込み、狼狽そうに泣いている。
そして向こうの男は斎藤誠。
誠という名前が付けられた彼は、全然誠実ではない人だ。
幼い頃から、誠は人々を喜ばせる方法を心得ており、嘘と巧みな話術で目的を達成するのに慣れていた。
こんな彼は、すでに何十人の女をベッドに騙し、同時に複数の人と交際するなど、最悪最低なクズ男であった。
もともとただ複数の獲物の一人に過ぎない伊藤あかりが、斎藤の微妙なバランスを崩してしまった。
伊藤の父親は社長であり、娘の教育も厳しい。
娘は恋人をできたということを気づき、彼はすぐに彼氏の情報を調べ始めた。
探偵が何日斎藤誠のことを調査を行い、この彼氏さんがやった悪行を記録して、レポートを伊藤あかりの前に置いた時に、彼女の精神は崩壊した。
そして現れたのは、今屋上のシーンだ。
「それは詭弁だ!!!嘘つき!浮気者!クズ!」
「はいはい、ごめんなさい、俺の悪かった」
斎藤は耳を掻きながら軽率にあやまる。この女声デケーよ、ベッドにいた時に全然声出さなかったのに。
目の前の取り乱していた女を見て、斎藤は思わず思った。
「誠、君、やはり私のこと好きですよね、他の女の子と別れて、私たちまたゼロから付き合いましょう」
「は?お前正気?用がないなら俺先に行くよ」
「お願い!お願いですから、行かないで!私、あなたの言うこと何でも聞くから、遊んだ時の金も全部私が出すから。だから他の子と別れて、そしてお父さんも認めてくれるでしょう」
彼女は斎藤の腕を強く抱きしめながら、泣き声でそう言った。
正直、彼女が言った条件は悪くない。ここまで自分のことを好きだとしたら、こんな社長令嬢と結婚するのも大きな利益を得られる。他の子と別れるかどうか、斎藤にとっては簡単だ、また噓をつけばいい。
しかし、斎藤は伊藤あかりを騙す自信があるけど、伊藤のお父親を騙す自信はない。
彼はきっと自分の性格や人柄を見抜き、自分を認めるわけがない。むしろこれは警告だ「もし自分はまだ彼の娘と関わっていたら、彼は介入する」って。
つまり、さっさと伊藤あかりと別れることが、斎藤にとって唯一の選択だ。
「っは、放せ!」
斎藤はついに彼女の手を振り払い、階段に向かって行く。そしてその時に、異変が起きた。
「さよなら」
「えっ?」
斎藤誠が最後に目にしたのは、伊藤あかりの虚ろな目つきと、絶望した表情だ。
......
フーーーー
風の音が耳のそばにうるさがっている。伊藤あかりの顔がだんだん小さくなり、遠くに離れていく。
なるほど、自分は、屋上から押されたのか。
斎藤は手を伸ばして、何を掴もうとしても、何も掴まれなかった。
落下は思ったより長く、自分の17年の人生を振り返られるほど長い。
斎藤は生まれから経験したこと、今まで自分と付き合った彼女たち、親、友達、同級生、自分の人生すべてを振り返ってみたら、意外と、忘れたくないほど重要なことを一つでも見つからなかった。
......
落下は思ったより長い、そして着地の時も思ったより痛い。
......
......
「ハッフーハッフーハッフー」
悪夢から目覚めたように、斎藤は大きな息を荒くついていた。
光線眩しい、周りには無数の人影が蠢いている。
視界がだんだん明晰になり、斎藤は身体へのコントロールもできた。
そして彼が気づいた――自分はひざまずいているの?
まるで大蛇のような巨大な鎖が手首と足首を締め付け、数えきれないほどの貴族たちは、宮殿中心にいる斎藤をひそひそ話している。
その御座の上には、冠を戴いた人物が斎藤を見下すような軽蔑の笑みを浮かべた。
「レデン、叛逆罪を犯したあなたは、死刑だ!」
「はい?」
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