母校の教師に20万円の美顔器を買わされそうになった話

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高校3年生の途中から不眠症になった私は、よく保健室で休ませてもらっていた。 夜はほとんど眠れないので、保健室のベッドで丸々2時間もスヤスヤと熟睡していた日もある。 当時、心の病気を患った母親の事を女性の保健教師に相談していた。 「学校では長く話を聞けないから、休みの日に聞いてあげる。本当は生徒と学校以外で会うのは駄目なんだけどね。」 私は保健教師を信じた。 親身になって悩みを聞いてくれる大人がいるんだと思った。 + 半月後の日曜日、私はバイトのシフトを半日だけにして、午後から保健教師と会う約束をしていた。 保健教師は時間にルーズだった。 私は普段、学校とバイト以外の外出は控えている。 「側にいてほしい」という母の願いを(ないがし)ろにすることはできず、用事がある時もできるだけ早く家に帰るようにしていた。 保健教師にもそれは事前に伝えてあった。 相談に乗ってもらう側なので文句を言える立場ではないが、話を聞いてもらう時間が減ってしまうことが残念だった。 「じゃあ行こうか」 待ち合わせの時間から30分遅れてやってきた保健教師は、何事もなかったかのようにそう言った。 「取り合えず、そこのハンバーガーショップに入ろうか」 保健教師に続き、私も店の中へ入る。 店の中は休日だというのにわりと空いていた。 「どれにしよう」 保健教師はどのメニューにするか悩んでいた。 しかし私が景品付きのセットにすることを伝えると、自分も同じ物にすると言った。 いざ注文しようとすると、一緒にメニューを見ていた保健教師が私の横から一歩下がり、少し後ろ側に移動した。 先に注文する権利を譲ってくれたのだと解釈した私は店員にメニューを伝える。 「私も同じで」 後ろから保健教師が言った。 「お支払いはご一緒ですか?」 店員がそう聞いた時、一瞬の沈黙が流れた。 マニュアルなのか気を利かせたのか分からない質問に、保健教師が言葉を発することをしない。 私が答える場面なのかと思い、「じゃあ別々でお願いします」と店員にそう伝える。 商品を待っている間はお互い無言だった。 用意された商品のトレイを持ち、保健教師はそそくさと席に向かった。 私達は窓際の席にあるテーブルにトレイを置き、椅子に腰掛けて向かい合った。 私と保健教師が頼んだセットには、少し大きめの犬のぬいぐるみのキーホルダーがついていた。 「可愛いね。先生、犬は好き?」 私の問い掛けに保健教師は無言のままで、なぜか機嫌が悪いように見えた。
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