母校の教師に20万円の美顔器を買わされそうになった話

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「あのね、こんなことわざわざ言いたくはないんだけど」 やっと保健教師が口を開いた。 「誰かに相談に乗ってもらう時は相手の分も奢るものなのよ。あなたにはそういうことを教えてくれる大人がいなかったんじゃない?じゃあ、さっきの分ね」 保健教師は先ほど払った自分のレシートをテーブルの上に差し出した。 ……それが常識なんだんだろうか? 私は、生まれてから一度もこういう場面に遭遇したことがなかった。 私はまだまだ世間知らずなのかもしれない。 初めての指摘で、何だか不意に落ちないような気もしたが、保健教師の機嫌を損ねてはいけないと思い、財布から小銭を取り出し料金を手渡した。 「……じゃあ、聞いてくれる?」   財布を鞄に仕舞いながら私は保健教師に訊ねた。 「どうぞ」 保健教師はジュースを持ち、ストローに口を付けた。 私は、学校では伝えきれなかった今の辛い心境を保健教師に打ち明けた。 母親のこと、卒業したら家を出るつもりでいること、もう限界が来ていることを出来るだけ簡潔に話した。 「あなたの家ってどうやって生計を立ててるの?」   話が一段落したところで保健教師が聞いてきた。 「生活費とか光熱費は家の収入から出てるよ。土地を貸したり。駐車場とかもあるから」 「……へえ、そう。お父さんが亡くなったから、家のローンは払わなくていいのね」 「ローンとかは最初からないみたいだよ。お祖父ちゃんが持ってた土地に注文住宅を建てたから」 少し冷めたポテトを口に運びながら答える。 「……じゃあお小遣いもたくさん貰ってるのかしら」 「お小遣いは中学までだったよ。 バイトを始めてからは貰ってないし、学校の備品代とかは自分で出してる。 学費を出してもらってるのはありがたいけど……、正直一緒に暮らすのはもう無理だなって思ってる」 保健教師の手が止まった。 「……バイトしてるの?」 「あ。他の先生に言わないでよ。クラスメイト達だって何人もしてるし。そもそも禁止の意味が分からない」 「言わないわよ。安心して」 保健教師はニコリと微笑み、私が話してる内にさらにしなしなになったポテトを口へと運んだ。 「バイト代って結構あるの?」 「シフト、いっぱい入ってるからね。最近はテスト期間中も。夏休みは給料が8万円もあったよ」 「すごいじゃない!そんなにあったら今の子はすぐ使っちゃうわよねえ……」 保健教師は大袈裟に驚いた後、目線をずらし独り言のように呟いた。 「私、あんまり物欲ないんだ。それより今は貯金したい」 「偉いわねー」 保健教師は何度もうんうんと頷き、私の話を聞いてくれていた。
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