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私は時間が気になり店内を見回すが、死角にでもなっているのか、時計が見つからなかったので鞄からスマホを取り出した。
「そのスマートフォンってdocomoの?」
保健教師が私のスマホを指差してそう言った。
「違うよ、au」
「手帳みたいなのに入れないのね」
「これは頑丈だから。プラスチックケースだけで充分だよ。手帳型のやつはいちいち開かないといけないから面倒臭くて」
「男の子が持つようなデザインね」
「女子でこの機種使ってる子は少ないと思うよ。気に入ってるんだ。カッコいいでしょ」
私は少し笑いながらそう返した。
「アプリ?とかも使ってるの?」
「そりゃ使ってるよ。スマホなんだから」
保健教師は私のスマホを覗き込んでいる。
私はインストールしてあるアプリの一覧を保健教師に見せた。
「へー、たくさんあるのね。生徒達の会話でもアプリがどうとかたまに聞くけど、先生にはよく分からないわ」
保健教師は少しだけ残っていたハンバーガーを口に入れた後、話し始めた。
「……うちの息子二人は小さい頃から本当にいい子でね。上の子は高校生で寮に入ってるんだけど。
この前の誕生日にずっと欲しがってたスマホをプレゼントできたの。」
「そうなんだ。いいね」
「もう、本当に喜んでて。頻繁にメールもくれるの」
保健教師はとても嬉しそうに語っている。
母親に愛される子供か…。ちょっと羨ましいな……。
「家族旅行もね、去年の夏に初めて行けたのよ」
「え?初めて?」
私は驚いて少し大きな声が出た。
「そう、初めて」
家族旅行というものは、小さい頃から誰でも経験していて毎年行くものだと思っていた。
私の家も、母親が体調を崩すまではずっとそうだったから。
……でも今の私の家庭状態だって、端から見ればかなりおかしなものに見えるだろう。
そりゃみんないろんな事情があるよね。
「じゃあそろそろ出ようか。時間がないでしょ?」
保健教師は自分が遅刻したことに対して、最後まで一言も触れなかった。
「うん。帰って夕飯の仕度しなくちゃ」
保健教師に車で駅まで送ってもらい、急いで帰宅した。
悩みを吐き出せて少しだけ気持ちがスッキリしたような気がした。
【今日はありがとうございました。話を聞いてもらえてよかったです】
家事が一段落したところで保健教師にお礼のメールを打った。
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