母校の教師に20万円の美顔器を買わされそうになった話

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「教え子なのよ。よく相談に乗ってて、今では親代わり」 保健教師が得意気な笑顔で答えた。 え?親代わり? 「この前も他の生徒と一緒に来たのよ」 私の顔を見て保健教師はそう言った。 「そうなのー!よかったわね、こんないい先生に出会えるなんてあなたラッキーよ」 馴れ馴れしく語り掛けてくる店員に戸惑い、保健教師の方を見る。 「まず飲み物でも飲もうか。珈琲と紅茶が飲み放題なのよ、ここ。すごくお得でしょ!」 正直なところ、カラオケやファミレスのドリンクバーの方がよほどお得な気がした。 保健教師は珈琲を、私は紅茶を選んだ。 カフェのようなスペースにあるテーブルにそれを置き、椅子に腰掛ける。 先ほどの店員も同じテーブルに着いた。 「ねえあなた、化粧品を使い切ったらなにが残ると思う?」 店員はいきなりクイズを出してきた。 「なにがって……。え、どういうこと」 よく分からないけれど『儚さ』とかだろうか。 「正解は『(から)になった瓶』です!」 ……ああ、物理的な話だったんだ。 「うちのサロンは『内側から美しくなる』がモットーなの。外から取り入れるなんて時代はもう古いの」 相談を聞いてもらうために保健教師と会ったのに、なんで私はこんな所にいるんだっけ。 「ねえ、先生って何歳に見える?」 保健教師が私に聞いてきた。 今日は本当に難しい問題ばかり出てくる。 こういう質問はお互いが気を遣うので好きじゃない。 だから私は正直に答えた。 「55歳くらい?」 その場に静寂が走る。 「先生ね、実は42歳なの。若い子に親世代の年齢を聞いてもピンと来ないわよね」 「ごめん。本当によく分からなかった」 ほら、誰も得しない。 「私ね、もともと色黒だったんだけど、このエステに通うようになってから色が白くなったの」 「そうなんだ」 全然白くは見えないけど、元々は松崎しげる色だったのかな? 店員が私の顔を眺めながら言ってきた。 「あなたも色が白いわよね。よく言われるでしょ」 「親が両方色白だから」 店員は先程よりジロジロとアタシの顔を眺めていた。 「……うーん……、肌も綺麗だけど…高校生にしてはちょっと首にシワが多いわね。今から対策しないと」 朝に鏡を見てからたった数時間で、私の首になにが起こったんだろう。 「ねえ、一度この美顔器を試してみない?」 店員が張り付いた笑顔のままそう言った。 女芸人のコントで見たことがあるやつみたい。 「そうよ、せっかく来たんだから無料体験してみたらいいのよ!」 保険教師が間髪入れずに言葉を続ける。 ……なんかもういいや。それが済んだら家に帰ろう。
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