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次の日、クラスメイトと教室で昼食を食べていた。
「どうかしたの?元気なさそうだけど」
弁当箱の中のパイナップルチーズ乗せハンバーグを口に運びながら友人が語りかけてくる。
大抵の人に引かれるらしいが好物らしい。
小さな溜め息を吐き、事の詳細を話した。
すると私の話を聞き終えたクラスメイトが真剣な顔で話し始めた。
「保健の先生の旦那さん、休日に少年サッカーのコーチをやってるの。自分の息子もチームに入ってて」
「へえ、そうなんだ?初めて聞いた」
「私の弟がそのチームも入ってたんだけど、明らかに会費がおかしかったっていうか……、水増ししてたと思う」
「水増し?」
「段々潤ってきたのか、コーチは高級車に乗り換えたり、保健教師も見学に来た時にブルガリの指輪してた」
そういえば最近、家を買ったと言っていたっけ。
「中古の家も買ったらしいね。サッカー教室のお母さん達にまで美顔器の勧誘を始めるし。本当、信じられなかったよ」
「他の人達も勧誘されてたんだね」
私は特に驚く事もなく言葉を返した。
「うちの母親も勧誘されてた。もちろん断ってたけど。弟も別のサッカー教室に移ったし」
「そうだったんだ……」
「マージン?っていうやつ?勧誘した相手が購入したら自分のエステ代とか、化粧品が安くなるメリットがあるらしいよ」
「ああ、そういうのTVで見たことある」
「ちゃんと断った?何も買わされてない?」
「あんなデカくてダサい機械に一銭も払いたくないよ。何が『内側から美しく』……だよね。まず人間としての内面を磨けって言いたいよ」
私は頬のシミを無意識に触っていた。
この子、自分の母親が勧誘されていなかったら、きっと私の話を信じてくれなかっただろうな。
普段から疑り深いけれど、自分の周りで起こった出来事だったから、私の話を真実だとすんなり受け入れられてくれたのだろう。
「後、違う話になるけど、前に別のクラスの友達が急に生理になっだけどナプキンを持ってなかった時があったんだ。私も持ってなくて」
「……うん」
「移動教室でもう教室に誰も残ってなかったから保健室に貰いに行ったの。そしたら『女の子なのにナプキンを持ち歩いてないってどういうことなの!?』って友達が無茶苦茶怒鳴られてた」
パイナップルチーズ乗せハンバーグを頬張りながら友人が言う。
チーズがなかなか切れないようだ。
近くで昼食を食べていた男子がチラチラとこちらを見ている。
「ご飯食べてる時にあんまりこういう話題は……」
「あ、ごめんごめん」
私も学校で急に生理になった時、ナプキンを持っていなくて保健室に貰いに行ったことがあるけれど、普通に笑顔で渡してくれた。
緊急で必要になった場合は、クラスと名前と借りた枚数を書くノートが保健室にはあり、後日に返せばいいルールになっている。
そのために保健室に生理用品が常備してあるのだろう。
「保健の先生がそんな感じだなんて最近まで知らなかった。教師が勧誘するとかも考えてもなかったし」
「まあ、あんまり関わらない方がいいよ」
「そうだね」
「そういえば最近見たんだけど。保健教師、遅刻したらしくて職員室で教頭に無茶苦茶怒られてたよ」
「時間にもルーズだったよ。……遅刻しそうな時も、わざわざ靴を履き替えてるのかな……?」
「え、なに?」
「いや、何でもない(笑)」
以前に聞いた保健教師の『お洒落には気を使ってますアピール』を思い出したが、特に面白くない話題なので省略することにした。
そしてこの先、一切保健教師と関わらないようにしようと思った。
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