第4話 弄ばれて

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第4話 弄ばれて

 私の努力も虚しく、ナオミさんの唇は無情にも離れていった。  ナオミさんの唇と舌の余韻にしばらく浸ってから薄っすらと目を開ける。 「よほど気持ちよかったみたいね。イキそうだったんでしょ」  ナオミさんがいやらしい笑みを浮かべて、上から覗き込んできた。  はあー、はあーと熱い息を吐きながら、私は首を横になよなよと振る。 「そう? 今にも蕩けそうな顔しているけど」 「そんな顔していません。無理矢理されて気持ちいいはずないでしょ」  精一杯の強がりを言った。  体はまだ火照っている。あのまま続けられていたら間違いなく上りつめていただろう。 「そう? こうしたら、気持ちよくなるかしら」  後ろからナオミさんの両手が胸を掴んで、ヤワヤワと揉みはじめた。 「うーっ。やめてください。こんなことして楽しいですか?」 「楽しいわよ。この大きな胸をずっと揉んでみたかったの」  私の胸は大きい。  カップはF。  夫は胸に惚れたんだろうと、会社の女の人たちがやっかみ半分に陰口を言っていた。  男の人にとっては胸の大きい女は魅力的に映るのかもしれない。  でも、本人は大変だ。  肩が凝ったり、痴漢にあったりとろくなことはない。 「ナオミさんにもあるじゃないですか。自分のでしたらどうです」 「小さくて面白くないの」  ナオミさんの胸はほとんどない。おそらくAカップ。  その胸の小ささもナオミさんの中性的魅力を増しているのだが。  ナオミさんの手が膨らみを慈しむように揉んでくる。  すごく上手い。  相手が女性だといことを忘れてうっとりとなってしまう。このまま続けられたら流されてしまいそうだ。 「いやです」  私は拒否の声を上げた。  だが、ナオミさんはやめてくれない。  揉む手が少しずつ外側から内側に入ってきて、一番敏感な頂点の蕾へと近づいてくる。  私の意識は自然とそこへ集中してしまう。  触られたときの愉悦を思いだし、早く触ってほしいというもどかしさとそんなことをされては大変なことになるという警告が頭の中で響き合う。 「はーっ。うーーん。や、やめてください。いやです」  ナオミさんの手を振りほどこうと、体を揺すった。 「本当にいやなのかしら。わたしには沙也加が悦んでいるようにしか見えないけど」  ナオミさんの手が敏感な蕾に触れるか触れないかというところまで近づいてくると徐々に離れていき、また膨らみの外側を揉む。  頂点に近づいては離れていくという行為をナオミさんは何度も繰り返し、なかなか触れてくれない。 「アーン」  集中していた意識を何度もはぐらかされ、切なさで鼻にかかったねだるような声を思わず漏らしてしまう。 「ふふっ。やっぱり気持ちいいんじゃないの。耳まで赤くして。いつもは見えないのに今日は出しているのね。すごく可愛いわよ」  いつもは背中まである髪を垂らし、耳を隠している。  だが、今日は料理をしないといけないので、うなじのところで纏めてシュシュで止めていた。  それがいけなかった。  剥き出しになった耳輪から耳たぶをナオミさんの舌が這い回る。  私は耳が弱い。  たまらなくなってしまう。 「あ〜ん。ダメえー」 「沙也加はオッパイも耳も弱いのね。本当に可愛い。食べたくなっちゃう」  夫に長い間放置された成熟した体は、敏感な耳と胸を絶妙なテクニックで愛撫され、どうしようもないほど甘く痺れてくる。 「イヤっ、ダメえー」  夫と莉緒を頭に浮べ、快楽に溺れてしまいそうになるのをなんとか堪える。 「本当に敏感ね」  ナオミさんが耳たぶを甘噛みし、耳の奥に極々細い息を吹きかけてきた。 「ヒイー」  体の中を電流のような強烈な刺激が走り、体が大きく跳ねる。 「いいのね。もっと感じさせてあげる」  ナオミさんの指が服の上から尖り始めた胸の蕾を揉むようにして摘んだ。胸を揉みながら絶妙な力加減で丁寧に乳首を捏ねくり回す。  ナオミさんの愛撫は繊細で優しい。夫にされるよりもずっと感じる。  体が燃えるように熱い。 「あっ、あっ」  胸と耳を同時に責められた上に敏感な乳首まで嬲られて、体はすっかり酔いしれて感じすぎてしまい、呼吸するのも苦しくなってくる。 「沙也加は嘘つきね。こんなに乳首を膨らませているのに。気持ちよくないなんてよくいえるわね。正直になりなさい」  しつこく乳首を嬲られ快感の大波が襲ってくる。 (ダメ。体がいうこときかない) 「はあー、うふーっん。ああー」  勝手に口が開き、喘ぎ声を抑えようとしても抑えきれない。 「あら、あら、そんな大きな声を出したら、二階の莉緒ちゃんたちに聞こえるわよ」  私は手で口を塞いだ。それでも声は漏れてしまう。 「はあーん、もう、いい加減にして。あっ、あっ」  同性だから分かる耳と乳房と乳首の弱点をナオミさんは巧みに愛撫してくる。  体の奥、子宮あたりから熱い昂りが込み上がってきた。 (もうダメ。おかしくなっちゃう) 「もう悪ふざけはやめてください」  ワインの酔いでナオミさんが悪ふざけをしているんだと思った。もうこの辺でやめてもらわないとみっともない姿を晒してしまう。 「あら、ふざけてなんかいないわよ。ずっとこういうことを沙也加としたいと思っていたの」  ナオミさんの真面目な声が耳をくすぐる。 「どういうことですか」 「わたし、レズビアンなの」 「まさか。じゃあ、どうしてエリちゃんがいるんですか」  女同士では子どもはできない。エリちゃんがいるということは男の人とそういうことをしたということだ。 「わたしは昔から好きになるのは女の子ばっかりだった。でも、他の人にはずっと隠していたの。男とも普通に接していた。でも、大学の謝恩会の帰りに泥酔したわたしを同級生の男がレイプしたの。それで妊娠してしまって、生まれたのがエリ」 「そんな……」 「その男はまったくなにもなかったように知らん顔をして、自分の郷里に帰って就職した。それ以来、わたしは男という生き物を憎み、自分の性癖を隠すことをやめた。それからは、ずっと女だけを愛してきたの」  ナオミさんがレズビアンだということ、年上だと思っていたのに年下だったということに私は二重の衝撃を受けた。 「私はナオミさんとは違います。女の人に興味はありません。夫を愛しているんです」  セックレスとはいえ、夫への愛情が冷めたわけではない。今でも夫を愛している。  それに、女の人とHをしたいなんて思ったこともない。 「だから、ほかの人とはHができないとでも言いたいのかしら。じゃあ、これはどういうことなの」  胸を揉んでいたナオミさんの右手がスカートの中に潜り込んできた。 「いやあー」  私は慌ててスカートの上からナオミさんの手を押さえた。  だが、ナオミさんの指はなんなくショーツの上を這い回る。 「だったら、どうしてこんなにショーツが濡れているのかしら。いやらしい」 「こんなことをされたら誰でもこんなふうになります」  体をいやらしくいじられたら誰でもこうなってしまう。  いわば、生理現象だ。 「ふーん。体が勝手に反応しているだけと言いたいわけね」  ナオミさんが小馬鹿にしたような声で言った。 「そうです。どうして私にこんなことをするんですか。同じ趣味の人とすればいいじゃないですか」  私はレズビアンでもないし美人でもかわいくもない。 なぜナオミさんが私にこんなことをするのかわからない。 「沙也加は自分で気づいていないだけよ」 「なにをですか」 「沙也加は男とでも女とでもHができるビッチだということによ」 「違います。私はそんな女ではありません」  夫と結婚する前に2人の男と付き合ったことがある。でも、付き合っているときはその相手としかHをしたことがない。  結婚してからは夫だけだ。誰とでもするわけではないし、Hが大好きということはない。  それに女の人に性的な興味はまったくない。 「それは本当の自分がまだ眠っているから。沙也加は相手が男でも女でも楽しめるの」 「そんなことありません」 「沙也加は相手の性欲を掻き立てるような声で泣くし、むしゃぶりつきたくなるような痴態を示す。イクときには、誰でもが興奮するようないやらしいメスの顔になるの。だから、男も女も沙也加に夢中になるの」 「でたらめばかり言わないでください」  今まで、誰にもそんなことを言われたことはない。それが本当なら夫とセックスレスになるわけがない。 「たくさんの女を抱いてきたわたしにはわかる。沙也加は生まれつきの淫乱だって。だから、ずっと狙ってたの」 「私はそんな女じゃありません」  ナオミさんが自分をそういう目で見ていたと知って、背中に寒いものが走った。 「沙也加の体は今まだ眠っているだけ」 「もう離してください。帰ります」  私は身悶えしてナオミさんの手を体から振り離そうとした。  このままいたら危険だ。なにをされるか分からない。  ナオミさんから逃げなくては。 「わたしが沙也加の体を目覚めさせてあげる」  ショーツの上で止まっていたナオミさんの手が動き出し、さらに中に潜り込もうとする。 「ダメです。そこは絶対にいやあー」  私は必死に体を捻って、最も大事なところを守ろうとした。  ナオミさんの女を知りつくした指で性器を愛撫されたら自分がどうなってしまうか想像ができない。  もし、ナオミさんの前で痴態でも晒してしまったら、夫に顔向けができなくなってしまう。  そんなことは絶対に許されない。  だが、抵抗むなしくナオミさんの手がショーツの中に強引に侵入してきた。 「沙也加の本性を暴き出してあげる」  ナオミさんの指が体の中に入ってきて、蠢きだす。 「もう許してください。アーン。これ以上はいやです」  私は、もはや啜り泣くことしかできなかった。
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