契約

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〈契約④〉 食事の後、リビングのソファでコーヒーを飲んだ。 新月の真夜中なので、その夜は泊めてもらうことにした。 「何もしないからさ」 ルカは降参するみたいに両手を挙げて笑った。 「今夜はさすがに危険すぎるから、助かるよ。それにしても広い家だね。ルカの家族は?」 「皆もう死んだよ。まだ板東に会う前だったな」 「そう…」 じゃあ、100年以上一人で… 簡単には死なないって こういう時辛いだろうな 「両親は二人とも(つばさ)で、とても優しかった。父親は学者だったんだ」 「ツバサ…?」 「吸血鬼(ヴァンパイア)に噛まれて死に損なった人間のこと。そいつらも吸血鬼になるんだ」  吸血の方法は大きく2つに分かれる。 人間を食糧と割りきって、命を奪う前提で全てを吸い尽くすか、愛すべき存在としてそばに置き、ほんの少しだけもらい続けるかだ。 人間が食糧として吸血鬼に噛まれると、そのまま死亡することがほとんどだ。でも、極限まで血液を吸われ、稀に運良く(よみがえ)ることができれば、噛まれた時の年齢や健康状態から不老になると言われている。それが翼だ。 ぱっと見た容姿は変わらないが、翼になると虹彩が紅く変化するために、人間に紛れて暮らすのは難しくなる。それに、寿命が延びるのにいつまでも若いままだから、次第に怪しまれることにもなる。 「今はカラコンがあるからな」 「え。じゃあ、潜んでる翼もいるってこと?」 「さあな。だけど、あいつらはあまり吸血欲求がないからな。そんなに警戒する必要はない」  異形の者として蘇ったものの、ヒトとしての倫理観の名残からなのか、吸血することにためらいを見せるそうだ。 「俺の両親もそうだった。渇いた時には医療用の血液製剤で(しの)ぐような人たちだったよ」  どんな事情で翼になってしまったのか、それは人それぞれだろうけど、彼らの多くは肩身の狭い思いを強いられているようだ。 「そこで最近多いのが、俺たちみたいな契約型だ」  手当たり次第人間を襲うのは気持ちの上でも、手間を考えても非合理的だ。それなら(あらかじ)め、血液を提供してくれる相手を見つけておいた方が、手っ取り早い。 「僕は『愛すべき存在』だね」 「ま、まあな」  ルカがまたそわそわし始めた。
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