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「折りたたみ傘をくれたのは、アーティストとして体を心配してくれてのことだったんですね。勘違いしてごめんなさい。……1つだけ確認したいんですけど、愛那さんは僕のことは恋愛対象としては見てないんですよね」
僕の問いに、愛那さんは目を伏せながらも答えてくれた。
「うん、ごめんね。私割とそういう恋愛? とか苦手なんだ。翔太くんは一緒に生活する大切な仲間で、私の心を支えてくれる素敵なアーティストって感じかな」
振られているのに悲しくはなかったのは、自分の歌声が好きな人の力になっていたという喜びがあるからだろうか。僕は笑顔で愛那さんの目を見た。
「そっか。僕の歌声が愛那さんの役に立ってることが分かっただけで満足てす。お願いなんですけど、これからも前と同じように接してくれませんか? 仲間として」
僕の言葉に愛那さんも笑顔になってこっちを見てくれた。
「もちろん。私からもお願いします」
初めての失恋は、思ったよりも苦しいものではなかった。保人さんが言うように、愛那さんは変わらず接してくれた。だけど、失恋であることには変わらない。少なからず落ち込んでいる僕に、浩介さんは言ってくれた。
「悪くない恋だったんなら、その想いを歌にしてみない? 気持ちも整理できるかもしれないよ。聞いてみたいな、翔太なりの失恋ソング」
僕は半分ヤケになりながらも今の思いをぶつけた言葉達を音に乗せてみた。恥ずかしさも相まって、浩介さんに聞かせて終わりにするつもりだったのに、浩介さんと保人さんの手によって世に出されてしまい、代表作の1つとして並んでしまうほどの人気曲になってしまった。
僕の拙い恋心に共感してくれる人がたくさんいるのは嬉しいけど、この曲を愛那さんは聞いてくれているのか、聞いたとしたらどう感じているんだろうか。昔話として語れるようになったら聞いてみたいと思う。
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