あなたと話がしたいから 〜茶座荘の日常〜 5

4/9
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「やば……雨降ってる」  僕は家に向かうバスに乗り込んだけど、愛那さんへの連絡を躊躇っていた。なぜなら今の時間は夜の11時。何でも屋の常連客である劇団の小道具作成をしていたらこんな時間になっていた。深夜に女性一人を呼び出すわけにはいかない。とりあえず、ありのまま連絡することにした。  “これから帰ります。傘持ってないんだけど、時間も遅いので今日は迎えに来てもらわなくて大丈夫です”  すると、すぐに返信が来た。  “よかった、連絡くれないかと思った。今日は窪田くんにお願いするので、心配いらないよ”  愛那さんが来てくれないのは残念だけど、濡れて帰らずに済みそうなので安心した。  バスを降りると保人さんが待っていてくれた。 「遅い時間にすみません。ありがとうございます」 「お疲れさま。僕はこの時間普通に起きてるから気にしないで」  朝早い仕事が多いので、12時近くなるとみんなわりと寝てしまう。たぶん今日も帰ったら僕たち以外はみんな寝ていると思う。  そう思っていたのに、家に帰ると愛那さんが迎えてくれた。 「お帰りなさい、翔太くん。ご飯は食べた?」 「あ……忙しくて食べそびれちゃったんですけど、もう遅いからいいかなって」 「おにぎりくらいなら作れるけど、食べる?」  そう言われてしまうと忘れていたはずの空腹が襲って来る。僕はお願いすることにした。 「あれ、でももう12時過ぎてるのに、寝なくていいんですか?」  時計を見て気付いた。愛那さんはいつもこの時間には寝てるはず…… 「これ作ったら寝るよ。食べ終わった食器は流しに置いておいてくれればいいから」 「すみません……わざわざ起きててくれたんですか?」  流石に申し訳なくて断ろうとしたけどもう作り始めてしまっていたのでとりあえず謝った。 「浩介からキツイ現場だって聞いてたから心配だったし、雨も降ってたから気になっちゃって。これでスッキリ眠れるわ」  そう言って小さめのおにぎり2個と、インスタントではあるけれど味噌汁を出してくれた。僕が食べ始めるのを見て「じゃあ、おやすみなさい」と言っていなくなってしまった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!