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あの時の足音が誰のものなのか気になったけど確認もできないまま今まで通り生活をしていた。
だけど、あれ以来心なしか愛那さんが距離をおいているような気がしてならない。例えば、朝起こしに来てくれる時も、以前は部屋の中まで入ってきてくれたのに最近は部屋の外から声をかけるだけになったり、朝ごはんの時間が合わなくて僕が1人で食べる時、一緒に座って雑談してくれていたのに台所に戻ってしまったり。
僕の考えすぎかもしれないけど、何となく前より他人行儀になった気がしてならなかった。やっぱりあの時保人さんとの会話を聞いていたのは愛那さんだったのだろうか。
そんなモヤモヤを抱えていた僕にとって、決定的な出来事が起こったのは、バイトに行くために準備をしている時のことだった。
「翔太くん、これ、よかったら使って」
そう言って愛那さんに渡されたのは紺色の折りたたみ傘だった。受け取って、自分が手にしているものが何なのかを認識した途端僕は絶望の淵から突き落とされたかのようだった。だから、僕は思わず問い詰めてしまった。
「愛那さん、そんなに僕を迎えに来るの嫌ですか?」
折りたたみ傘を持っていくということはいつ雨が降っても濡れずにすむ一方、もうバス停に迎えに来てくれることも無くなるということ。つまり僕を迎えに来るのはもうしたくないということなのだろう、そうとしか思えなかった。
「え? あ、そういうことじゃないよ。これがあればいつ雨が降っても濡れなくて済むからいいかなと思ったんだけど」
「やっぱりあの日の話聞いてたんですよね。その上で僕の想いが迷惑だから、遠回しにこうして気持ち伝えたってことですか?」
「ち、ちょっと待って。あの日の話って何のこと?」
僕の話をするトーンが上がる一方で、愛那さんはどうしていいか分からず戸惑っているようだった。だけどもう僕の気持ちは止められなかった。
「最近僕と距離おこうとしてるし、僕の気持ちが迷惑なら迷惑って言ってくださいよ!」
僕の絶望が頂点に達したときだった。
「翔太、落ち着いて。たぶん話がちゃんと噛み合ってないから。いったん冷静になって話しよう」
間に入ったのは浩介さんだった。浩介さんは僕の目の前に立つと、僕を椅子に座らせてくれた。おかげでヒートアップしていた気持ちが少しだけ和らいだ。
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