あなたと話がしたいから 〜茶座荘の日常〜 5

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「まず、愛那に確認したいんだけど、何でこのタイミングで傘を翔太に渡そうと思ったの?」  浩介さんの問いに愛那さんは戸惑った表情で答えた。 「昨日駅前まで買い物行ったんだけど、折りたたみ傘が安売りしてて。翔太くんいつも朝雨降ってないと傘持たずに家出るじゃない。帰りだけ雨に降られるんなら迎えに行けばいいけど、それ以外の移動する時に雨降ったら濡れたままなのかなと思って。これがあればいつ降っても安心かなって思って買ってみたの。余計なお世話だったかな……」  愛那さんを落ち込ませてしまったことは申し訳なかった。だけど、本当にそれだけなんだろうか…… 「翔太、お前が言ってるあの日の話、ってやつ、保人さんと夜話してた時の事だよな。あれは……ごめん、あの時通りかかったのは俺なんだ。盗み聞きするつもりは無かったんだけど、トイレに行った帰りに聞こえちゃって。こんな勘違いすると思ってなかったんだ。本当にごめん」  え? と言うことは…… 「僕が愛那さんのこと相談してた話、愛那さんは知らなかったってことですか?」  驚きのあまりありのままを口にしてしまい、気まずくなってしまう。愛那さんが今度は何のことかと驚いたままこちらを見ている。  ……もうこうなったら話すしかない。僕は覚悟を決めた。 「愛那さん、ごめんなさい。僕、愛那さんのこと好きなんです。でも一緒に生活しててそんな事言われても迷惑かなって、保人さんに相談してたんです。最近愛那さんの態度に違和感があったから、もしかしたらその時の話聞かれてて敬遠されたのかと思って」  浩介さんもいる中、思ってもいない告白になってしまい顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。 「そっか。そんなふうに思ってくれてたんだね。ありがとう、嬉しいよ。私、翔太くんと距離をおいていたわけじゃないんだ。そう思わせてたのは申し訳ないんだけど」  そう言って、愛那さんは僕の近くに来て目を見て話を続けてくれた。 「最近夜雨の音がすごいと、夜中に目が覚めたり、寝付けなかったりしてたの。そんな時、翔太くんの曲を聞いたらすごくリラックス出来て、よく眠れるようになったんだ。翔太くんに助けられたと同時に、すごい人なんだなって改めて思っちゃって。それで……なんか自分がこんなに気軽に話をしてていいのかなって、緊張? とは違うけど、遠い存在の人なのかなって思うようになっちゃって。誤解させちゃってごめんなさい」  思いもよらない愛那さんの言葉に僕は嬉しいような、戸惑うような不思議な気持ちだった。だけど、ようやく分かった。
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