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終章
一年後の梅雨。
また今年も、篠田のおじいさんが軒下に風鈴を下げた。
康二郎は高校三年になり、志望の大学を目指して頑張っている。勉強する自室の格子窓の向こうには、雨の通りが見えた。
チリンと風鈴が鳴る。
けれどももう、水森葵は現れない。
『雨が降れば会える』と願った恋しい人に、あの世で巡り会えたのだろうか。
去年、葵が佇んでいた辺りに、今年は立葵の花が咲いた。
薄紅色のそれは、凛としたあの女性の姿を思い出させた。
<了>
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