終章

1/1
43人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

終章

 一年後の梅雨。  また今年も、篠田のおじいさんが軒下に風鈴を下げた。  康二郎は高校三年になり、志望の大学を目指して頑張っている。勉強する自室の格子窓の向こうには、雨の通りが見えた。  チリンと風鈴が鳴る。  けれどももう、水森葵は現れない。  『雨が降れば会える』と願った恋しい人に、あの世で巡り会えたのだろうか。  去年、葵が佇んでいた辺りに、今年は立葵の花が咲いた。  薄紅色のそれは、凛としたあの女性(ひと)の姿を思い出させた。 <了>
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!