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あの日
ここまで来る間、バスを降りてから神楽の手は少しばかり震えていたのに、土をかけ戻す彼の手は力強くシャベルを握っていた。ジャッと舞う黒い土が男の顔であったはずの輪郭を隠し、続いて胸から下にかかっていく。
やっぱり、怖いのではないか――。
死んだ人に見つめられるのは気持ちのよいものではない。
たとえそれが骨であったとしても。
「代わろうか」
後ろから声をかけると神楽は手を止めずに低い声で言う。
「服、汚れるだろ」
その言葉に私はカーディガンを羽織りなおし、ギュッと淡いブルーのワンピースの裾を掴む。瞬間、乾いた笑いが漏れそうになる。
とっくに汚れている。私はとっくのとうに汚れている。
そのことを、神楽は一番よく知っているはずだ。
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