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重たい瞼を開く。視界に映ったのは、シミ一つない真っ白な天井。
(……わた、し)
そう思って、ローゼが起き上がろうとした。すると、がっちりと抱き留められていることに気が付く。
驚いてそちらに視線を向ければ、そこにはイグナーツがいた。彼はすやすやと寝息を立てており、その寝顔は普段からは想像も出来ないほどに無防備だ。
「……あぁ、そっか。結婚、したんだっけ」
寝台の近くにある窓から、外を見つめる。そこでは太陽が昇りつつあり、まだまだ早い時間だと告げていた。
壁掛け時計が示すのは、いつもの起床時間。
これまでのローゼは、寄宿舎暮らしのときも、実家にいたときも。この時間に起きていた。
「……イグナーツ様のこと、起こすの忍びないなぁ」
そんな言葉を零して、ローゼはもう一度毛布に潜り込む。
大人が二人寝そべっても余裕のあるこの寝台は、きっとかなり高額なものなのだろう。
心の中でそう零しつつ、ローゼはすやすやと眠るイグナーツの寝顔を見つめる。
「寝顔は、すっごく幼く見える」
彼の頬をつつきつつ、ローゼはそう零した。
そして、それとほぼ同時に――昨夜のことを思い出し、顔にカーっと熱が溜まるのを実感する。
「……それに、好き、って」
ふと、意識を失う前。彼はローゼに向かって『好き』と言ったような気がした。
気のせいではなければ、彼はローゼを好きと言って、可愛い可愛いと連呼して――。
「私、可愛くないのに」
どちらかと言えば、ローゼはきれいと称されることの多い顔立ちだ。可愛いなんて、成長してからは言われたことがない。大体の褒め言葉はいつだって「きれいだね」だったのだから。
そう思っていれば、イグナーツが瞼を開いた。その視線は周囲をきょろきょろと見渡した後、ローゼを射貫く。
「おはようございます、イグナーツ様」
ローゼのその声は、ほんの少し震えていた。なんというか、照れくさかったのだ。
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