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「え、エリーが婚約!?」
その日、ローゼは実家の屋敷に戻ってきていた。シャハナー王国の独身の騎士は基本的に騎士団の寄宿舎で生活をする。女騎士もそれは例外ではなく、休日以外は基本的に寄宿舎暮らしだ。もちろん、結婚すれば自宅から通うことも可能である。けれど、女騎士は結婚を機に仕事を辞めてしまう者がほとんどであり、騎士団に現在既婚者の女騎士はいない。
そして、ローゼが自宅でゆっくりとしていたとき。ふと、母親に呼び出され――三つ年下の妹エリーに婚約話が持ち上がっているという話を教えてくれたのだ。
「まぁ、そういう話が持ち上がっているというだけだけれどね。……エリー、どうにも前々からお付き合いしていた人がいたらしくて……」
母が肩をすくめながらそう言ってくる。
……そんなもの、ローゼも初耳である。
「わ、私も、今初めて知ったわ……」
ぼうっとしながらそう言葉を返せば、母は目をぱちぱちと瞬かせた。どうやら、ローゼは知っていたと思っていたらしい。
「そうなのね。……ただ、問題があって」
「……問題?」
「そう。そのお付き合いしている方は、伯爵家の嫡男なのだけれど……」
そこまで言って、母が露骨に眉を下げた。
なので、ローゼは大体言いたいことを悟る。
(持参金の問題ね……)
このシャハナー王国の貴族同士の結婚には、なくしてはならないものがある。それが――花嫁側が用意する『持参金』である。
特に伯爵以上の爵位を持つ家は持参金を求めてくる。先ほど母は伯爵家の嫡男だと言っていたので、きっと持参金を求められたのだろう。
「持参金のことでしょ?」
ローゼが淡々とそう問いかければ、母がこくんと首を縦に振る。
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