86人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
話しているうち辺りはすっかり暗くなり、頼りない電灯と欠けた月がわたし等を照らす。手首は随分握られ続けて感覚が無くなりつつある。
片桐の告白は驚きに次いで申し訳無さを巡らせ、つまり彼の気持ちに応えられない。これが結論。
「……今日のところはマンゴープリンはお預けという事で帰るぞ、解散!」
わたしから手を離せないと察知したのだろう。片桐は歯切れのよい声で離すタイミングを演出し、力なく戻された腕がぶらぶら揺れて心も揺れる。
「ミユ」
呼び掛けに怒気は含まれておらず、考えてみれば家族を除いて片桐しかわたしを名前で呼ばない。
「振られたからって友達辞めたりしねぇから安心しろよ。明日になれば今まで通りだ」
「友達でいてくれるの? いいの?」
食い気味に聞いてしまい、片桐は頷く。
「当たり前だろ。ミユも変に気を回したりしないでくれよ? 俺、今の関係が壊れるのは嫌なんだ」
「う、うん。わたしも嫌だ」
「暗いから気を付けて帰るんだぞ」
「うん、ありがとう。片桐も気を付けて」
「おぉ! じゃあな」
片桐はニコッと笑う。満面の笑みなのに欠けているような笑顔。
何度か振り返り、その度手を振ってくれる彼を見送りながら、わたしは生まれて初めて月の裏側を見た気がした。
最初のコメントを投稿しよう!