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「片桐!」
いつの間にか雨が降り出していた。片桐はずぶ濡れのわたしに目を丸くし、それから当たり前に傘を差し出す。
「女の子が身体冷やしちゃ駄目でしょ。何? どうした? 困った事でもあったか?」
「……片桐を、追い掛けてきた」
「俺を? 傘もささずに?」
ファミレスへ向かうであろう片桐にやっとの思いで追いつくと中腰になり、ぜぇぜぇ息切れする。鏡を見なくても自分が酷い有り様なのは分かっているが、拭う間も惜しかった。
「謝りたくて。片桐、ごめんね、ごめん、わたしーー」
「とりあえず、こっち。雨宿りしようか」
片桐は冷静に雨風を凌げる公園へ誘導する。バイト帰り何度か立ち寄ったことのある東屋に入って自販機で飲み物を買う。
「ほら、これ飲みな。あとタオル使え。安心しろ、体育で使おうと思ってたけどサボったから未使用だ」
バッグを漁りタオルを取り出して頭の上から掛け、カフェオレを握らす。スマートな気遣いが温かい。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。髪、ちゃんと拭けよ」
簡易であるもののベンチとテーブルが設置されている。しかし全身が濡れた状態で着席はしにくく、片桐も立ったまま。
「それで? どうしてミユが謝るんだ?」
強くなる雨足を見上げ、片桐は尋ねてくる。
「わたし、片桐をたくさん傷付けてた。青山君と話をしてたらハッとして、謝らなきゃって思ったの」
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