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片桐の匂いがするタオル、なんだか落ち着かないようで落ち着く。
「俺はミユに傷付けられた覚えは無ぇし、謝らなくていいよ。あぁ、ひょっとして青山に謝って来いとか言われたとか?」
傷付いていないと言いつつ、こちらを見ようとしない。声音も何処か強張って低めだ。
「ううん、言われてない、よ」
「なら、なんで? 青山に告られたんでしょ? やり直そうと言われたんじゃない? ミユはなんでここに来た?」
「青山君の気持ち、知ってたの?」
「はっ、知ってたなら早く教えて欲しかったか? そうすれば悩む時間が少なくて済んだのに?」
片桐は眉間を揉み、かぶりを振る。
「ち、違う! わたしはもう」
バッとわたしに身体ごと姿勢を向け、今にも泣いてしまいそうな揺れる瞳を突き付けた。
「俺だってミユが好きなんだ! 青山と付き合うお膳立てなんて本当はやりたくない! でもミユが幸せならいいと我慢してた!」
ころり、手元の缶が滑り落ち、転がって片桐のスニーカーへぶつかる。
「……まだ、わたしを好きなの?」
「あぁ、好きだよ! 悪いかよ! 全然諦められねぇ上に、どんどん好きになっちまう! ずっとミユに片思いしてるわ!」
噛み付くような感情の吐露に、自然と涙が溢れ、体当たりで伝えられた好意で胸がドキドキした。雨にさらされた全身が一気に熱くなる。
「わ、うわ! 泣くなよ! 俺にこんな風に想われるのはキモいよな? 分かってる、分かってる」
わたしの泣き顔に片桐は我に返り、フォローを始める。カフェオレを拾おうとした指先が後悔で震えていたのをみ、彼へ抱きつく。
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