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「か、片桐!」
元彼を前に大胆な密着をされ身を捩ったーーが、びくともしない。がっしり掴まれている。
「さっき告られてた子、清楚な子だったなぁー。羨ましい。で、付き合うの?」
片桐はプライベートにずけずけ踏み込む物言いを人懐っこさで中和した。もしわたしがこんな発言したら非難されるが、片桐なら許されてしまう。
にこにこ八重歯を見せ答えを待つ片桐に、青山君は額へ手を当てる。
わたしが知る限り、青山君と片桐の性格は真逆だ。例えば突然雨が降ってきたら青山君は雨宿りしてやむのを待つ、一方片桐の場合、誰かの傘に入れてもらう、もしくは傘をささず濡れるタイプ。
お互い目立つ存在なので名前と顔は認識していても、友人関係を築くとなると難しそう。
「君には、いや君達には関係ない」
君達と言い直した辺りから含みを感じた。つまりわたしが片桐側の人間と言いたいのかもしれない。
「だよねぇ、お前が誰と付き合おうと俺やミユには関係ないよな」
うん、うん、と一人で納得する片桐。
「同時にミユが誰と付き合おうと青山には関係ない訳だ」
なぁ? 同意を求められて、げんなりした。
「そんなの当たり前でしょ。もういい? バイトに遅れちゃう」
周囲の目もあり、この場に留まりたくない。片桐の袖を引っ張って促すと、何故か嬉しそうな顔をした。
「なぁなぁ、バイト上がったらマンゴープリン食べない? ミユ、好きだろ?」
「分かった、分かった。早く行こうってば!」
「よっしゃあ、ミユの奢りな!」
などと、たかっておいて、片桐がわたしに奢らせた事は一度もない。
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