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彼女の状況が重なって見えたのもあり、勢いで自分語りをしてしまい気まずい。それと青山君に未練タラタラだと改めて痛感し、鼻の奥がつんとする。
「いやいや、ミユが泣きそうになるのはおかしいだろ。てか、泣くほど青山が好きなのか? あいつの何処がいい訳? 仮初めの彼女って言って、ミユを大事にしてくれなかったじゃん」
「それを片桐が言う? 片桐も同じなのに?」
涙の気配を察知した片桐は渋々語り始めた。
「確かに俺は告白してくれればお試しで付き合ってみるかって聞くよ、実際この子にも聞いた。ただ、これには前置きというか条件があるんだ。ミユには言わないだけで」
「前置き? 条件? なにそれ知らない」
「ミユには言わねぇってば」
だからミユには言わない、片桐が繰り返し言った時だった。
「うわぁぁぁぁっ!」
突然彼女が大声を出し、しゃがみ込んでしまう。わたしは豹変に呆気にとられたが、片桐の方は彼女と目線を揃え、ぱちん、両手を合わせた。
「ごめん! 俺、こういう奴だからさ」
毎度わたしにする謝罪より心が込められていて、少し切なそうで諦めた顔をする。
「……お試しで付き合ってくれなくていい」
「うん」
どうやら片桐と彼女の間で何かが成立したみたい。
彼女は片桐の手は借りずに立ち上がると、状況が飲み込めないわたしを睨む。
「アタシ、バイト辞める! 一緒に働きたくない!」
そして一方的な決別宣言をし、足取り確かに去っていく。
「えっ、えっ、わたし!? な、なんで? 悪いのは片桐じゃないの?」
「あーあ、ミユのせいでまた新人が辞めちゃったか。こりゃ店長に言い付けないと。店長怒るだろうなぁー」
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