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・・・この作品はカラー以前の昔の映画のような白黒で表現しています。
『樹木にとって最も大切なものは何かと問いたら、それは果実だと誰もが答えるだろう。
しかし、実際には種なのだ。』
________フリードリヒ・ニーチェ____
[____in 1956 June 28th_____]
_____ダイナー・カルタゴ_______
ドスッ
テーブルを介し、二人の男はチャイニーズレッドのソファーに座りながら、今来た男はコーラを、先に来ていた男はコーヒーを追加で頼んだ。
先に来た男は読んでいた新聞をゆっくりと畳み、今来た男に視線を合わせた。
「遅いぞ。
30分も待たせやがって」
「何してやがった」
[ レイミー・グラッドストン (62歳)
ペンシルバニア大学卒業後、ニューヨーク市警に
就任。その後訳あってオレゴン州警察警視長に
身を置く。
主人公、スタンリー・バイソンの元上司 ]
「...30分か」
「道中腹が減って、バリー・ジュレイで"カプチャプ"を食おうと」
[スタンリー・バイソン(30歳)
短髪で、イギリス軍の黒のゴム引きモーターサイクルコートを着た無精髭の男。この作品の主人公]
「...なに?」
「"カプチャプ"だよ、ミディアムレアの牛ステーキに四角く切った小さいじゃがいもを乗っけるんだ、炒めたやつを」
「あ?」
「加えて別プレートにライスを盛って...一緒に食うんだ」
「味つけは炒め刻みニンニクをふんだんに混ぜ込んだ"かえし"ソース。"かえし"ってのは日本の万能調味料のことだ」
「...かえしもカプチャプもよく分からんが臭いの原因はお前の口臭だって事はわかったよ」
「...」
「今度連れてけよ」
「...ふふ」
「...へへへ」
「「ふへへはははッ」」
「今度連れてけだと?
そんなに食いたいのか?」
「まぁいい、結構いけるぜ」
「ははっ」
「それよりオレゴン州田舎警視長よ。
なんだって俺に用があるって呼び出した?
俺はもう引退したんだぞ」
「確かに、お前は2年前に刑事を引退した。
だが今回は情報提供して欲しいだけだ」
「俺の知ってる限りなら、協力できる」
「いや、オレゴンの警察やってた野郎なら誰しもが知っていることだ」
「グリース・ガンが脱獄した」
「...」
「...奴が...脱獄した...?」
「そうだ」
「昨日の朝、日課の点呼の際、房から出てこない奴を刑務官が覗きに行ったら」
「奴はベッドの上で血まみれの腹を抱えて寝転んでいた。
そりゃあシーツにシミがつくほどべっとりとな」
「だが驚いたことに_____」
「...よく研いだ刃物でぶっ刺した、か」
「なぜ知ってる」
「奴の常套手段だ。
2年前、俺がグリース野郎を追ってた時、ある事件に出くわした」
「それが奴の逮捕の決め手の娼婦惨殺事件だ」
「J.キューティ?」
「そう、被害者は27歳ジュリアン・キューティ。
こいつは偽名だ。
本名はどれだけ調べようと分からなかった」
「そいつは前州知事の隠し子だったからな。
存在ごと消そうとしたんだ」
「...初めて知ったぞ」
「まぁ、その事はいい。
俺が現場に到着した頃、深夜だった」
「薄汚ぇモーテルの006号室。
月明かりで照らされた薄暗いその部屋に入った」
「異様な臭いだ。
今まで死体に立ち会ったことは何十回もあったが、こいつはとんでもないことが起きてるって臭い」
「変な汗かいてきたんで、俺は銃を取り出した」
「寝室に入ると、砂嵐のテレビ横のベッド。
そこには四肢に手錠をはめられた無惨なキューティの姿が」
「頭から股まで一刀両断。
彼女の断面が月明かりに照らされ、また綺麗に見えたものだ」
「血管という血管がくっきりと見えて、脳みそも荒い切れ方では無かった」
「ただ、彼女の切れ目と切れ目の間に大量の百合が。
異臭の原因はこれだった」
「その隣の地べたに奴はうずくまって唸っていた」
「血まみれだ。
そのどす黒い血が俺の革靴に触れるのを感じた」
「俺は銃を下ろした。
その現場を見て、奴が犯人と誰が疑う?」
「そして吐き気をこらえて奴に手を差し出したその時」
「奴の目がカッと光った。
うずくまって隠していた右手のナイフを俺に勢いよく押し出した」
「その時にできた傷がこれだ」
ガバッ
「...なぜ今まで黙ってた?」
「俺の評判が落ちる」
「刺された刑務官には同情する。
奴は人として絶望的に"何か"が欠けているんだ」
ギギーッ
「_______話は以上だ」
「おい、一体どこ行くんだ」
「奴を追う。
2年前やり残したことを終わらせに行くんだ」
_____________________
ゴーーーーーーー________
「もう夜中の1時。
一体どこに向かってるの?」
[ロリータ (18歳)
スタンリー探偵事務所で秘書として働いている赤毛のアイルランド系少女。今で言うウルフカットを好んでおり青いドロップイヤリングを付けている。また、セージグリーンのデニムジャケットと黒のチノパンツの組み合わせも気に入っており毎日着ている。スタンリーとは8年の付き合いがある。落ち着いた高い声が特徴]
「探偵の秘書なら分かるだろ」
「分かるわけない、こんな街灯もない真っ暗闇で」
「いきなり叩き起して、残業代出してくれないと困る」
「...あぁ、出すよ。
それよりお前、"あれ"持ってきたか?」
「はい。
あなたのデスクから持ってきた物が____」
ゴソゴソ、ガサ
「手帳」
「あぁ」
「"ギリー・ティーム"、ワンカートン」
「ワンカートンも買ったのか?」
「長旅の予感だから」
「あぁ____」
「それと、あなたのM4-4Lと、9mm十箱」
「助手席に置いといてくれ」
ガコッ
「ん?」
「私からのプレゼント」
「銀弾とはまた驚いたな。
狼男でも倒しに行くってか?」
「漢じゃねぇか。
野郎の何が好きかを分かってる」
「この仕事が終わったら拳銃買ってやる。
銀のアクションアーミーだ。
それで悪魔殺しに転職しろ」
「なら真っ先にあなたを狩る」
「あー、笑えるね」
_____________________
am3:00 セイラムの木々に囲まれたグリース・ガンの生家
深夜3時。
車のライトで照らされたそこは、グリース・ガンの生まれの家だった。
雑草が生い茂り、正面玄関の階段は折れ、木造のその家は既に廃墟と化していた。
バタンッ
バタンッ
「___それで、今日は何をしにこんな田舎に来たの?」
「2年前やり忘れた仕事をやりにきたのさ」
「待って。
スタンリー、今日は探偵の仕事じゃないの?」
「...」
「刑事をやめて、それから一生探偵に身を転じるって話は?」
「刑事としての仕事はこれっきりだ。
この件が終わればちゃんとまた探偵商売に戻る」
「反対。
事務所の経営すら不安定なのに。
今まで一体誰が上手くやってきたと思ってるの?」
「...お前だよ」
「安心しろ。
犯人吊るしあげたら相当な金が入る」
「どれくらい?」
「俺の事務所が安定するくらい」
「ふーん...」
「だからお前も手伝え。残業代もその日分出す」
「...」
「それなら、いいよ」
「ついてくるか?」
「うん」
「しばらくろくに異性とセックスすらできない生活だぞ」
「何言ってるの。
私はスタンリーみたいな年中発情ゴリラなんかじゃない」
「俺は性欲が強いからな。
30を迎えてもなお現役から衰えてない」
「...知らない」
「そんなことより入るぞ」
「性欲強い男とは入りたくないです」
「処女も難儀だな」
「...」
「スタンリー、気色悪い」
_____________________
「嫌われたな、ありゃ」
「...まぁ、女に下ネタも程々にしとこう」
「...」
歪んだ鍵付きの棚を無理やりこじ開ける。
バギ...バギギッ
ガチャッ
「...」
「ジャックポットだ」
ギィッ ガチャ
「どうしたの?」
「ジャックポットだ」
「はい?」
「あ、そこ腐ってて...」
バギィッッ
「ぎゃッッ」
「...言わんこっちゃない...」
「うぐ...ロリータ、代わりに運転してくれ...」
「...分かった」
「どこ?」
「ジャクソンの店だ、あのドーナツ屋...」
「黄色いジーンズ履いたのがドーナツ持ってるモニュメントのとこ?」
「あぁ、そこだ...ちなみにそいつがジャクソン君だ」
「なんでもいいけど、飛ばすよ。
捕まっててください」
「...っ」
_____________________
「...あぁ、いたいた」
コンクリートの路面に水分が十分に染み込んだ午前3時半。
それでも黄色いドーナツの客寄せ野郎、ミスター・ジャクソンはニコニコで客を歓迎してやがる。
こんな粒の大きい雨だと言うのに。
車内には懐かしの、プラターズによる『only you』が。
だがジャクソンの野郎はプレスリーの『I love you because』を流していやがった。
流行の的だ。
カランカランッ
ズルズル
「う...重..い」
「自分で歩いてよ...!情けない...!」
「店の姉ちゃん」
「え、え...?」
「あんただよあんた。
呼んでくれ」
「救急車...」
「いや、その奥に引きこもってるジャクソンって野郎だ」
「て、店長ですか?」
「そうだ...早くしてくれ」
ガチャッ
「おいおい一体なんの騒ぎだ、もう朝の3時だぞ」
[ビリー・ジャクソン(31)
巨漢。
ジャクソン君のついた帽子とエプロンを常に着用。
スキンヘッドで茶色の長い髭を生やしている。
その両腕の筋肉といったら____]
「よぉ、クソ野郎」
「...」
「チカ、倉庫から小麦粉持ってこい」
「...?」
「小麦粉はまだ厨房にあるんじゃ...」
「あぁ、もっと必要になった。
でけぇ生地が入ってきやがったんでね」
「...よく分かりませんが、行ってきます...ね」
コツ____コツコツコツ....
「それで?
その右足でこの俺に何の用だ」
スタンリーは赤と黒のチェックのカウンターチェアに勢いよく座った。
のち、「ふぅ」と一息入れてギリー・ティームに火を入れる。
オレンジのライトに照らされた紫煙を拝みゆっくりと奴の方を目を細めて視点を合わせる。
まるで西部劇だ。
「ある家に入った。
2年前と比べて随分とくたびれた家だ」
「だが中に入れば2年前と何ら変わりは無い。
精々蜘蛛の巣が増えただとか、木が腐ってた程度だ」
「そこで一つ、あることに気づいた。
2年前と変わりないからこそだ」
「...あ?」
「あれは俺が奴を吊し上げた後の家宅捜索___」
____________________
_____2年前
[オレゴン州の皆さん、おはようございます。
本日は毎度おなじみビリー・ノアがお送りします、朝の天気です。本日はセイラムが大豪雨、ポートランドは曇りのち雨、 _____]
ガチャッ
「警視長。
奴の部屋の引き出しを見ようとしたらヒューズのクソ野郎に止められたぞ。なんとか言ってくれ」
「...あいつはFBIだ。
俺が言ったとてどうもならん」
「...くそ」
「それよりお前にプレゼントがあるんだ」
「あ?」
チャリっ
「...」
「んふふふ」
「「っがははははは!」」
俺は警視長からその引き出しの鍵を受け取り、ヒューズが目を離した隙に部屋に侵入して引き出しを開けた。
すると中には手帳が入っていた。
厚いカビの生えた皮の手帳だ。
俺は捜査のため中を覗いた。
『1945年 9月 日本人との戦争が終わった。
俺が行くまでに終わってしまった』
『なぜ俺はこんなチャンスを逃したのだろう。
俺が戦場に出ていればそこらの将校よりも秀でた戦果を残せたはずなのに』
『45年 11月 家の醜い悪魔が俺に指図をしてきやがる。
いや、毎日指図するが今日のは許せない。
便所に落ちた棍棒を拾えだと?
それで俺を殴るのにってか?
だが俺はやった。
クソがこびりつく不快な感覚を覚えたが、嫌とは言えない。
それが母親だからだ。
親には逆らえない。
絶対に逆らってはいけないのだ。
今日は人生最悪の日だった。
さっさとマス掻いて寝よう。』
「(読んでて気分がわりぃ...)」
『51年 最近はクラシックを聞いている。
月光を夜な夜な聞くのが最高だ。
雰囲気は抜群にいいし、何より嫌なことを忘れられる』
脳内に月光が流れる。
『52年 友人にバカにされた。
いや、もうあの野郎は友人などでは無い。
母親に逆らえばこの世のものとは思えないような不幸を受けると唯一の友人に話したと思えば、まず冷めた目で鼻で笑い、次に蔑みきった表情で真っ向から否定してきた。
そしてしまいには俺に、お前は頭がおかしいと。
いつかぶっ殺してやる』
『53年 奴を殺した。
奴は普段から隙を見せない性格で、家に帰った時も戸締りを忘れない。
だが今日、奴は街の不良どもから襲われ頭部から血を出しながら夜中に帰宅した。
財布も盗られたようだ。
家には奴の彼女がいるので、恐らく手当を受けていたのだろう。
そこでリストのコンソレーション「慰め」が流れてきた。
気を利かせて彼女がレコードで流していたのだろう。
それを聞いた瞬間、俺の奴を殺したい衝動はピークに達した。殺人衝動ってやつだ。
勃起が収まらない。
もう我慢できない、そう思うと同時に俺はもう行動していた。草むらから気づかれないように家に入り込み、グリース・ガンを用意した。
灰色のコートから出されるマガジンを取り付け、準備は万端だ。
そして曲と衝動がピークに達したその時。
俺は射精しながら2人を掃射した。
奴はボロボロのまま息絶え、彼女は顔面がズタズタのままあの世へ行った。
その姿にもう一発ぶっかけた。
俺からの神聖な結婚祝いだ』
『54年 これから殺しに行くのは俺を振りやがった淫乱女ジュリアン・キューティー女王陛下。
真っ赤に燃える彼女の性器で射止めた男は数しれない。
水商売の女ごときが俺を振りやがって。
こっちは金払ってるってのに、あのアマ。
何回食事を奢れば気が済むってんだ。
同じ人間か中身を見てやる』
「...」
「キチガイが」
「おい!てめ何やってやがる!」
「っち...!」
それ以降ヒューズはその棚に手帳を閉じ込めた。
そのまま
そう、一生そこにそのままのはずだった____
_____________________
「それが、さっき見に行ったら消えてたんだ。
おかしいだろ?」
「俺は知ってる。
こういう猟奇事件の犯人ってのは戻る習性がある」
「戻る?」
「あぁ、戻るだ。
自分の記憶に色濃く刻まれた場所に戻る習性がある」
「奴は1度家に戻ってきた。
自分の作品に等しいその手帳を取り戻しに」
「それが一体なんだってんだ!」
「グリース・ガンはここにいる」
「...スタンリー。
ここドーナツ屋だよ?」
「ドーナツは関係ねぇ」
「こいつに直接関係がある」
「...」
「ジャクソンよ、最近の経営はどうだ。
左前か?」
「そう、お前は金が欲しいんだよ、カネカネ。
昔からよく年下から金とってただろ?」
「金ってのは時に人を惑わす。
それ故に判断が誤っちまう」
バゴンッ
「さっきから何言ってやがる。
やんのか、やらねぇのかハッキリしろ!」
「焦るな。
幼なじみの仲だから言ってやってんだぜ」
「グリース・ガンは金持ちだ。
というより、J・キューティが金持ちだった。
莫大な売上を上げていたキューティを殺した日、奴は同時に彼女の全財産を奪って逃げた」
「その額3670092ドル。
ハリウッドセレブ並みだ」
「でもその後捕まったんじゃ...?」
「それが、奴は自らが捕まることを予期し金を埋めた。
奴しか分からん隠し場所にな」
「それはまだ警察が総力を上げても見つかっていない」
「よく考えろよ、ジャクソン。
金の亡者のお前がグリース・ガンと手を組まないと誰が思う?」
「それだけの理由で_____」
「(...そうだ。この人はそんな理由だけで動くような、感覚で生きてる人間だった)」
「(でもその感覚はよく当たる)」
「(それがスタンリーの才能。
よく当たる勘の才能______)」
「(でも、本当にこんなとこにいるのだろうか)」
「奥の事務所を見せろ。
さもないとまた豚箱にぶち込むぞ」
「...てめぇはいつもそうだよな、サツの権力を盾に好き勝手しやがる。そういうところも気に食わねぇ」
「意気地のねぇ野郎だ、まるで民を玩具にする貴族だ」
「...面白いことを言うな。
悪いがそういう冗談は大嫌いだ」
「俺がそんな傲慢な貴族だって?
生まれてこの方そんな事思ったこともねぇよクソ」
「自分の嫌いな人間に例えられる程胸糞悪いことはねぇな」
「事実だろうが」
「悪人を豚箱にぶち込んで何が悪いってんだ。
ここで撃ち殺したってかまわねぇんだぜ」
「それをしたらお前は真の貴族だよ」
「殺す!」
「スタンリー...!」
「...バカが、俺に勝てると思ってんのか!」
「知るかよ。
ただてめぇがムカつくだけだ...!」
バギッ
「ぶっへぁ!」
「ッ!スタンリー...!」
スタンリーは右手から繰り出される大男の平手打ちにあっという間に吹き飛ばされた。
歯が折れ、口が切れると同時に血が出てくる。
「....ふぅっ!効いたぜ」
「ひでぇ冗談だ。
その顔と足でやるってのかよ」
「おう、やるって言ったらどうするよ」
「...っこのクソッタレが」
バギョッ
バグッ
ブヂャアッ
「やめて!警官殺しはタダじゃ済まないよ!」
「うるせぇ!」
バチンッ
「ぶふッ!」
「女ってのはいつもうるせぇなぁ。
安心しろよ、証拠も残らねぇように2人仲良く裏のワニに食わせてやる」
ギンっ
「ギビィッ!」
「...おいおい、俺の部下に手出してんじゃねぇよ」
「もうギリー・ティーム買ってくるやつがいなくなるだろうがよぉ!」
ギンッ
バギンッ
グビッ
「ごぉえぇ、てめぇ、ナックルダスターなんか...」
ゴォンッ
「ヴギッ...」
「...ふぅ。
何年かごしの下克上ってな」
「おいロリータ、終わったぞ_____」
「...こんガキゃ...ぶっ潰してやる」
「...は?」
ドス、ドス、ドス
「おい、おいおい待て待て待て...!」
「...!」
パギョッ
________________
ブォオオ________
「だから仕方なかった...!そもそもあいつが...!」
「あいつが!?あいつがなんだって?金玉つぶすこたぁねぇだろお前はいつもそうだよな!」
「いつもぽんぽん潰してない!」
____________________
___5分前_____
「クソ、またかよ!」
「ふぅ...!ふぅ...!」
「クッソ...!」
タッタッタッタッ
バンッ
スタンリーは奥の部屋に突入した。
ただ、回転椅子がゆるりと周り裏口のドアが揺れていた。
ガォン、ガガッ.....キキーーーーーー_____
「クソ、クソ逃げられた...!」
「ロリータ、フレッチア持ってこい!」
__________________
「...クソ、あの野郎300SLなんて速い車を...」
「どんどん離されてる...」
「そんなの知ってる!こっちは10年も前の車だぞ!」
「...クソ、おいロリータ」
「なに」
「しっかりハンドル握ってろ。俺は奴を蜂の巣にする」
「...殺すの?」
「お灸をすえてやるのさ」
「さぁ、お前に貰った銀玉のデビュー作品よ」
カチャッ カチカチッ ジャキッ
「喰らえ、狼男!」
パキキキキキパキキパキキキキキッ_____
「うっ...!うるさ...!」
「死ね!この醜悪で、死に損ないのゴミムシ野郎...!」
パキキキキパキパキキキキキキパキッ!
カチカチカチッ
ブォオオ....
「逃げられた...!
なんで実弾使わなかったの?
パンクさせることもできたのに!」
「寝ぼけたこと言うな。
走行中のタイヤに撃っても跳弾してあぶねぇだけだ」
「...あいつを逃がした」
「おいおい、別に逃がしたわけじゃねぇよ」
「いや、逃がした!
犯人は奪った金で、こんなオンボロイタリア車よりももっと高性能な車で目の前を煽りながら突っ走ってった...!」
「おい、俺の愛車をバカにするな。
フレッチア・ドーロはボディが美しいんだ。
速さだけが比較対象じゃない」
「この際言わせてもらうけど、私だって本気で犯人捕まえようとしてる!なのにあなたと来たら銀玉鉄砲を乱射して...!」
「目印さ」
「....え?」
「あの銀玉は目印だ。
ただの銃弾よりかは目立つだろ」
「だからなんなの?」
「普通の銃弾だったらな、一般人に聞き込みしてもマフィアの抗争だと思ってみな警察の事情聴取にも応じない。
万が一情報提供して、サツに売ったと因縁つけられたら彼らもたまったものじゃないからな」
「しかも奴が逃げたこの道は小さな村に直結している。
朝方に道中村人に聞き込みをして回ったら必ず見つかるはずだ」
「...つまり、もうほぼチェックメイトってこった」
チャコッ ジジジジ...
「ぷかぁ...やっぱりギリー・ティームだな」
「...なんだ...そっか...良かった....」
ロリータは安堵のため息を漏らし、ハンドルにつっ伏す。
「お前には感謝してるぜ。
こんな俺にも文句言いながら着いてきてくれるしな」
「...ふぅ、一旦そこの宿で休む。
そこのモーテルにつけてくれ」
「...はい」
___a.m.6:40_ラ・バータ(モーテル)___
チ チ チ チ チ チ_______
「...」
舌打ちのような置き時計の針の音が木霊する。
スタンリーはガーガーとベッドで寝て、ロリータは木製の椅子に右肘をかけて頬で顎を支えて黙りこくっている。
ロリータはだいぶ疲れていたが、全くと言っていいほど眠気がなく暗闇の中で両目を見開いていた。
彼女は探偵業で悲惨な現場を数々見てきたが、これ程刺激的なものはなかった。
ピピピピ、ピピピピ、ピピピ_____
ガンッッ
「ゔ....ぃ」
「...そろそろその目覚まし叩き壊す癖直さないの?」
「ふぁ...あ...待て、目覚めの甘味だ」
カチ、カチ______
「...その寝起きのパイン缶詰も体に悪い」
「俺は二型糖尿病だ。
Okinawaから帰ってきた時にストレスからの暴飲暴食でなっちまった」
「俺はもう死ぬ。
ジョー・ミセスのレギュラー司会者みたいに右足切断してまで生き延びたくはねぇ」
「スタンリーが行ったのは戦争が終わる頃だよ。
そのストレスを建前に食べるのをやめないのが原因なんだよ」
「...なんだって?」
「...え?...いや、だから、戦争が終わる頃って言ったら別にそんな戦うわけでもないのに______」
「次そんな勝手なこと言ったらぶっ殺してやる。
お前は戦争がなんなのか知らねぇだけだ」
「...ッぶ、殺す...なんて...」
「黙れ、黙れクソガキ。
あの戦争ってのはな、終わる頃が一番狂ってたんだ」
「ただの民間人だと思ってた日本人が俺の仲間を殺し、それを見兼ねた上官が民間人の住む穴蔵を火炎放射器で丸焼きにするんだ。お前は分かっててさっきのこと言ったのか?おい!」
ガシッ
「ッ...やめ」
「あいつら、子供まで使ってくるんだ...!
GAMAから出た瞬間手榴弾持たせて突っ込んできたんだ...!」
「...くッ」
バチンッ
「...ふぅ...ふぅ...」
「んぅ...はぁ...」
「痛ってぇ...」
「...ごめんなさい...私が...ひどいことを...」
「...」
「...さっさと仕事に行くぞ」
_____________________
ブォオオオオオ______
「...あの」
「...スタンリー」
「なんだ」
「その、さっきの話...」
「なんだよ」
「...怒ってる」
「怒ってねぇよ」
「私も、疲れてる、今日と昨日で...」
「だから...許して欲しい」
「...恥ずかしい」
「え?あぁ...」
「いや、お前じゃねぇよ。
...悪かったな」
「俺が恥ずかしいんだよ、あんな醜態晒して」
「度が過ぎて、自分の好きな人間にさえ暴言を吐いちまう。
俺はこのおかしな病気のせいで女に逃げられた」
「ずっと隠してたがな。
嫌だったら事務所辞めてもいい」
「...」
「...私がいなかったら誰が事務所を切り盛りしてくんですか」
そう言って彼女は笑った。
最近彼女はよく笑うようになった。
本当に心の底から笑っているようだった。
それがスタンリーの過去の傷を癒しているとは知らずに。
「...」
「相変わらず気の強いやつだ」
ここでスタンリーはラジオを付けた。
バッハの『主よ人の望みの喜びよ』が珍しいことにかかっていた。
「スタンリー、もし良かったら...運転変わる?」
「病人扱いするな。
お前は俺が頼んだ時だけ運転すればいい」
「これは俺の車だ。
...相棒でもある。
俺はこいつを見た時からこの車で死ぬ覚悟を決めたんだ」
「俺はイタリア人じゃないが...ものづくりの上手い彼らの作った最高傑作と一緒に大地に帰れんなら本望だ」
「そう、それがいい」
フレッチアの鼓動を聴きながら彼らは濃紺の空の下で淡々と話し合う。
だがお互い、居心地は悪そうではなかった。
「...そういえば」
「腹減ったか?」
「なんでわかるの?」
「俺が腹減ってたからな」
____________________
7:20分 グッボイ・クラブ
このグッボイ・クラブでは新鮮な海鮮料理(主にカニ)が味わえる。現地の人からも高い評判を得ている。
今まさに2人のように朝からカニを貪る者も少なくない。
まだ彼らの間にはさっきの音色が流れ続けているようだ。
カチャカチャ
「スタンリー...もぐ」
「...なんだ...んも」
「死んじゃうの?...ジュル」
「...死ぬな...んむ」
「本当?...あぐ...」
「大マジだよ...うぁむ...」
カチャカチャ_______
カチャッ.....カチ....
「...」
ポロポロ
「....」
「なんではやぐ...言っでぐれながっだの...?」
ボロボロ_____
「...」
彼女は口にカニをいっぱいに頬張りながら大粒の涙をボロボロとこぼし始めた。
8年振りの涙である。
「...はぁ...」
フキフキッ
クシャッ
スタンリーは近くの御絞りで手を拭き、ロリータの頭に手を置いた。
「まだ死ぬ気はねぇよ」
「...ここのカニ美味いな。
今度来たら、あのチリソースを試したい」
「また来ないか?
まぁ俺が死んでなかったらの話だけどな。がははっ」
「本気で言っでるの...!」
「...ぁ...」
「ここまで本気で心配してたとはな」
「思えばお前とは、もう8年の仲か___」
____________________
____8年前 オレゴン州警察署総本部___
「スタンリー、この子が例の」
「...小さいな」
「10歳だよ。
先日のアイルランド系とイタリア系の抗争で孤児になってしまった」
「どっち側だ?」
「アイルランド系だ」
「...」
「レイミー、やめておけって...!
マフィア同士の抗争に関わったらぶっ殺されるぞ...!
後処理だからって何されるか分かったもんじゃない...!」
スタンリーはデスクに座った警視長の間近で、小声でしかし力の籠った言い方で警視長を説得した。
ただ、孤児には聞こえないように。
「お前のとこで保護してやれば安全だ」
「一体なんで俺なんだ」
「一番信頼できるダチだからだ」
「スタンリー、この世で信頼できる親友ってのは何人いると思う」
「5人?3人?」
「_____0人」
「そう、基本人間ってのは信頼できない。
いくら仲良くても土壇場で見捨てるような野郎ばかりだからな」
「だがお前はどうだ、ん?
ドンキー・ダリーの一件を覚えてるな」
「あぁ覚えてるよだがな...」
「お前は、俺を助けた。だろう?
ドンキーに刺されそうになった時逆に刺し返してやった。
まぁ、その後の処理は大変だったが...」
「俺はこれでもお前を信頼してる。
だから頼むんだ」
「養育費は私が出す。
それに月に2000ドル上乗せする」
「わかった、わかったって...ったく。
なんでそこまでこの子供に固執する」
「他にもこんな子供、珍しくねぇ」
「...」
「救いの手を差し出せる時に差し出して、なにか特別な理由がいるのか?」
「...」
___________________
ガチャッ
「今日からここがお前の家だ」
彼の家は一軒家だった。
しかし、薄暗い照明にテレビの目の前に椅子があって、すぐ横にスナック菓子がテーブルに乱雑してる具合だった。
恐らく寝室とリビング以外は使ってない為ホコリこそ溜まっているが物は乱雑していないだろう。
「...お前、名前は...」
「...」
「(ないってか。
ひでぇ親もいたもんだ)」
「まぁ...いい。
とりあえず、風呂でも入るか」
「....」
「...こっちだ」
ギュッ
「...やっ...!」
バチンッ
「うぉっ...」
「(...これは...)」
_________________
____遺品保管室___
「ケリー一家の資料?
あぁ、この前の一家がほぼ全員が死んだやつか」
ゴソゴソ
「ことの経緯からならこの資料からだな。
この一家の父親マイク・ケリーが所属の組織アルゴから...」
「いや、それじゃなくて...家庭環境の資料が欲しい」
「家庭環境?...待て、あったこれだ」
「一家の集合写真がないわ、2人分のベッドしかないわ、ひでぇ資料だよ」
「虐待なんかもあったらしい。
わざわざ氷の入った冷水浴びせたり、逆に熱湯あびせたり。
あーあと、飯にゴキブリを混ぜたり_____」
「.....」
__________________
ガチャッ
「....ッ!」
扉を開けた瞬間、彼女は危険を感じて瞬発的にソファーの陰に隠れた。
「...悪いな、驚かせてしまって。
君は...」
「ピザを買ってきた、有名チェーン店の。
もし良かったら...切り分けてそっちに持ってくから」
「食ってくれ。腹減ってるだろ」
「...」
モグ
「ほら、うめぇもんしか入ってねぇよ、んむ。
今そっちに切り分けてやる」
スー_____
「ほら」
「...」
「食わなかったら、全部食っちまうぞ」
「...!」
そー...
「ん...ぁむ」
「どうだ?」
「んっ、むぐ、んむ...!」
「はは、まだあるぞ。
いっぱい食えいっぱい」
___________________
「(20分足らずでほぼワンホール完食かよ...
俺は一切れしか食ってない...)」
「...」
「そういえば、お前名前まだだったな」
「...」
「...うん」
「じゃあ、今日からお前は名前を持って再び生まれるって訳だ」
「...」
「ロリータ」
「....」
「...変態」
「別に変な意味じゃねぇよ。
俺の好きな本のタイトルからとったんだ」
「...」
「あぁ、別の方がいいかもな」
「...別にいい、それで」
「...いいのか?」
「...今まで、おいとか、こいつとか...
そんな感じだった」
「...誰かに考えてもらった名前で呼ばれるのは...嬉しい」
「...そうか」
「そうだ、まだ腹減ってたらなにか買ってくるけど...いるか?」
「ピザ」
「あーピザね。
わかったよ、ちょっと待ってろ」
「...もう少し一緒に...いてほしい」
「...わかったよ。
じゃあまた後で買いに行こう、すぐ近くだ」
「一緒に行くか?」
「...」
「(外出はまだ無理そうだな)」
___________________
「...にしても、散々ピザ食い荒らして寝たな」
「追加で買ってきたのも秒で食いやがった」
「...すぅ...」
「そこで寝てると、風邪ひくぞ」
「まて、ベッドまで運んでいってやる」
スっ
ゴロッ
「(...もう隣のベッドで寝てもいいよな)」
ゴロ
「...ふぁ...疲れた...」
「もう...寝る...」
「ぐ...がぁ...」
「...」
もぞ
「...ん...うぉ...」
「こっち来たのか」
「...」
「...いいさ。寝よう」
「...ふっ...ぅ...」
ポロポロ
「(...安心して泣き始めたか)」
「安心しろよ。
これからは普通に...暮らせるようにしてやる」
そういって、スタンリーは毛布の上からロリータを撫でた。
これが8年前の涙である。
_____________________
「(8年経っても変わらねぇな)」
「...もういい、早く奴を探しに行くぞ」
「ほら、店を出よう」
______________________
____ジョセフ・マルコフ牧場_____
ある牧場の馬小屋にて。
藁の上で本を読んでいる男がいた。
男は緑の牛革ロングコートを身につけ、顔が見えない。
頭は丸刈りで、10針縫ってあるあとが痛々しく残っている。
その男に早朝、近づくのは一人の農夫だった。
「あんた、アレルギーは?」
「...」
「ないなら、これでも食えよ」
「今朝の搾りたて牛乳と自家製パンだ。
都会の飯とは比べ物にならんよ」
「...」
ガサッ
「...はぁ...」
「私に構うなと言ったはずだが」
「あぁ...まぁでも、腹減ってるだろ。
あんた、昨日からずっとここに______」
「金はやる。
これ以上関わるとろくな目にあわんぞ」
「...んん...
そんな硬いこと言うなって。仲良くしないか?」
「...お前、私に探りを入れようとしてるのか?」
「は?」
「____主はワインを自らの血と称してお分けになった」
ダッダッダッダッダッダッダッダダン
「...」
男はまず、持ち前のグリースガンで農夫を撃ち抜き、それからグラスに入った牛乳を捨てた。
相変わらず森の小鳥たちはぴーぴーと騒いでいる。
男は農夫の真っ二つになった上半身を片手で持ち上げ、流れ出る血液をグラスに注ぎ込む。
そしてパンをちぎり、グラスいっぱいに注いだ血液に浸して朝食を楽しんだ。
ここは人里から離れた牧場だ。
銃声に気がついたものは誰一人としていなかった。
__________________
「...ん、あれって」
ロリータが銀玉を大量に撃ち込まれた車を見つけた。
「あれだ。林道に捨ててったな」
「俺は様子を見に行く。
お前はここで待ってろ」
「私も行く」
「ダメだ、危険すぎる」
「車ん中で待機だ。
いつでも車を動かせれるようにな」
カシャッ ガチッ
スタンリーはM4-4Lにマガジンをセットし、予備も両ポケットに入れた。
「奴は何してくるかわかったもんじゃない」
ガチャッ
スタンリーは銃を構えゆっくりと近づいていく。
「(運転席に何かいる)」
そー...
「うむぉ...!
うぅううむん!むんうぅあぅ!」
「(...人だ。
地元の人間か?口に布が詰め込まれすぎて顔が真っ赤だ)」
「(助手席や後部座席にも誰もいない)」
「よし、今助けてやる」
「んむぉおおおおおぅぁああッ!」
「(...なんだ?
急に騒ぎ始めやがった)」
「...おい、聞け。
このドアに触ったらまずいのか」
「んむぅ...!むぬぅ...!(コクコク)」
「触ったらどうなる。
...何がまずいんだ」
「窓ガラスと口の布は触っても大丈夫なのか?」
「...(コク)」
「よし、下がってろ」
ガシャ、バリンッ
すぽ、ずぼ______
「おら、これで...どうだ」
「ぶはっ!ドアを開けるな!
爆発するぞッ!」
「...なに?」
「はぁ...!わからんが野郎がここに爆弾かなにかを...仕掛けた...俺がそいつを助けようとしたらいきなりぶん殴られて、手足を縛られた!」
「ハゲ頭にでっけぇ傷がついた野郎だ...」
「おい、おいロリータ!
今すぐ警視長に連絡して爆弾処理班を向かわせろ!」
スタンリーは大声で遠くの車にいるロリータに叫んだ。
「っ...わかった」
「俺は刑事だ。
今警察がここに来るよう手配している」
「俺は犯人を追う。
警察が来たら、ちゃんと説明するんだぞ」
「奴は俺から見て...東の方向に走っていった...
わからないが、その方向にはジョセフの牧場がある。
もしかしたらジョセフは何か知ってるかも知れない...」
タッタッタッタッ
「ロリータ、警察がここに来るまで見張ってろ。
あの車には触るな、運転席のドアを引いたら爆発する」
今度はスタンリーはロリータの近くに走り寄る。
「スタンリー、どこいくの...?」
「奴を追う。
ここから東の牧場に向かう。
グリースガンはそう遠くない」
「行ってくる」
「スタンリー...!」
タッタッタッタッ
____________________
「(...赤と緑の風車)」
スタンリーは東の方向に進み続け、丘を登り続けた。
足を休めることなく。
すると彼は、11年前の訓練場を思い出した。
輝かしかった自らの過去。アメリカ国民としての栄光。
共に訓練に勤しんだ戦友達。初めて貰った勲章。
「(...あの頃は良かったなぁ、あの頃は)」
「(その直後地獄を見たが...だが、あれは間違いなく俺の青春だった)」
「(ジャッキー、BJ、キンバリー、マイク)」
「(俺ももう...そっちに行くかもしれない)」
「...俺は、生きすぎた」
バシュッ
「...っ!」
咄嗟に近くの木の影に隠れる。
「...いきなり撃ってくるとは」
ガクガク
「...」
膝が震える。
武者震いだろうか。
スタンリーは右拳で膝の皿を殴りつけ、自分を戒めた。
「さぁ最後の仕事だ...こいつぶっ殺して名誉除隊だ...!」
ババババ、ババ、バババババ
___________________
「ちっ...撃ちながら向かってきやがった。
だから戦い方を知ってる奴は嫌いなんだ、気色悪ぃ」
「お前のことは忘れてねぇぞ、クソ刑事。
マス掻いてる時にきやがって。
お前には絶対捕まらねぇからな」
「...この距離だったら新しいのを試せそうだ」
ガコッ
「(M189L____かのソ連の英雄が使ってた銃だ。
アメリカに輸入するのは大変だったが...目立った傷もなし、奴を遠距離から殺すには十分だ)」
カキョッ
______________________
「(残り20フィート...
息は切れてるがまだ走れる)」
_____キラッ
「...!」
____________________
ザク ザク ザク ザク
「伍長、あと何マイルでCに到達する...?」
「はい...恐らく4マイルかと」
俺ら緑の巨人は日本のベージュ色の砂浜を歩く。
辺りには林や森なんかない。
ここがどこか分からない異国に、俺らは10キロの荷物を背負って歩く。
どうやらここは沖縄って言うらしい。
俺の夢は警察だったが、それよりもこっちに興味が湧いた。
だからここに来た。
そんなことなんて、ざらにあるだろ。
てっきり激しい撃ち合いがあると思えば、あるのは美しい森と海。
そして笑わない国民。
彼らは滅多に俺らの前には現れない。
俺らを怖いと思っているらしい。
「よぉ、スタンリー。
お前サーフィンしたことは?」
マイクがライフルを両肩にかけ俺の肩にぶつかってきた。
「ないよ。そんなことしたらサメに食われちまう」
「バカ言うなよ。
浅瀬の方にはいないさ」
「お前は得意そうだな」
「俺はハワイでもう何回もやってる。
マニアでね、ここ最近じゃ例のお前のマンションより高い波に乗ったぜ」
「よせよ、またその話か?」
右前を歩いているキンバリーが会話に入ってきた。
「小隊ん中じゃその話で持ち切りだ。
この話をすりゃ病人も飛び起きて笑うってな」
「朝起きたら金玉をネズミに噛まれてた、これで満足かよ」
「ぶふっ、なんだそりゃ」
「曹長聞いてくださいよ。
こいつ、部屋で寝てたら精子ごとネズミに_____」
キラッ
「...なんだ?」
バシュッコオオオン
脳みそが吹き飛ぶ。
それが、マイクの最後。
キラキラと輝く星のような光は星なんかじゃなく____
敵のスナイパースコープだったんだ。
_____________________
バシュッッ
「...っ」
「(...あぶねぇ。
一体どこからあんなもん手に入れたんだ)」
バババババババ
「マイクに救われた、マイクに」
ダッダッダッダッ
____________________
バスッ バスコンッ
「(適当に撃ってる訳じゃない...あいつも狙って撃ってくるからこっちも隠れるしかない)」
「...仕方ねぇ」
___________________
バゴンッ
スタンリーはグリースガンのいるバルコニーの真下のドアを蹴破った。
「ぅ...らッ!」
「がぁあッ!」
グリースガンはドアの裏に隠れていた。
そしてタイミングよくスタンリーの腕に目掛けて斧を振り下ろした。
そしてもう一撃。
スタンリーは叩かれた腕で防御しようと試みたが、露出した骨を砕かれ皮1枚繋がった状態にされた。
ババババババッ
虚しく銃声が響く訳だが、一定の距離を取ったグリースガンには当たらなかった。
更にスタンリーは目標目掛けて弾丸を撒き散らしたが、背後の階段を登って逃げられた。
「うぉ、ぉ...!」
「(血が止まらん...)」
スタンリーはその場に座り込み壁に背中をつけた。
「お"ぉ"え"ぇ"」
ボトボトボト
バババババババ、カチッカチッ
「はぁ...くそ...」
ぶんっ
M4-4Lを置くに投げ捨てた。
足元には自身のゲロが散乱してる。
恐らく今朝のカニだ。
「ふぅ...っふぅ...!いくぞ...!」
ブツ ブチチ_______
「________ぃ"ッッぁ"あ"ぁ"!!!」
自らの腕の皮一枚を左手でちぎる。
最早、使用不能の腕などスタンリーにとってはゴミ同然だった。
チャコッ
「...よぉソニー!
そっから降りてきて俺を殺したらどうだ!」
「_____その名前で呼ぶんじゃねぇ!」
2階から奴の声が聞こえる。
「1930年生まれ、キチガイの母親から生まれたキ印野郎!
かかって来やがれ寝ぼけてんのか!」
ぶんっ
「______黙れ!」
「この汚ぇカゴを投げるってのがお前の答えか腰抜けが。
お前の母親の言う通りだな、そりゃこんな出来の悪ぃクソガキ棍棒でぶっ叩きたくもなるぜ...!」
「______殺してやる!」
「さぁ弾は切れたぞ!
男らしくやり合おうぜ、お前の行きたがってた世界大戦の延長線だ!」
ごくっ
「_____こんくそ_____」
ド、ド、ド、ド
ソニーは階段からけたたましい音をたてながら走って降りてきた。
「_____ん"ぅ"っ!」
斧を振り上げたその瞬間______
ガシャンッ
「ッ!てめ...!」
「_____じゃあな、クソッタレ」
カチャッ
「ふうぅぅ______」
ボオオォォォ
「ん"ぶぶぁ"あ"ぅ"う"う"ぅ"う"ぁ"あぃ"ぃ"い"い"ッッ」
「ふんっ、かかったなボケが。
今お前にぶん投げたのはメチルアルコール。
そして俺が飲んだのもメチルアルコール」
「ハワイの先住民がパフォーマンスでやってるのを真似してみたが...本当によく燃えるな」
「お前、ハワイ行ったことあるか?
いや、ある訳がねぇ。
ずっと親に縛られてたからな」
「お前は親を殺してからも過去に縛られ続けた。
俺の罠にかかったのがいい証拠だ」
「俺の作戦勝ちだ...俺の...」
「はぁ...」
カチャッ
「(ロリータが買ってきてくれた最後の1本か)」
カチッ ジジジ....
「...疲れた」
「すぅ...ぷかぁ_______」
...ぼぅっ
___________________
「みんな...車に触らないで___!」
「あ、レイミーさん!」
「ったく、あの野郎こんなめんどくせぇ仕掛けしやがって...
もう安心だ、ここは任せろ」
「あいつはどこだ、スタンリーは」
「ここから東の方に行きました...まだ帰ってきていない」
「...グリースガンを探しに行ったのか?」
「待ってろ、今応援を呼ぶ」
「今からなんて...遅い...!」
タッタッタッタッ
「...!
おい行くな!死にたいのか!」
____________________
「スタンリー!
...はぁ、はぁ....んぐっ」
ロリータは丘を登った。
「...なに、あれ...!」
轟々と燃える木の家があった。
「これは...スタンリーのマガジンっ」
「...はぁ...はぁ...!
んぐっ、はあぁ...!」
ロリータは涙を飲み込みながら無我夢中で駆け抜けた。
燃えながら暴れ走る馬達を避けながら。
彼女はバケツの中に入っていた馬用の飲水を頭からぶっかけ、覚悟を決めた。
「スタンリー...!」
ロリータが家の中に入る頃には火がそこらじゅうに燃え移っていた。
煙で視界が酷くぼやけたが、目の前に右腕のない黒焦げの男が横たわっていた。
「嘘だ...嘘だスタンリー、ねぇ!
火が...!」
ロリータは叩いて火を消そうとする。
だが付着したメチルアルコールのせいで全く火が消える気配は無かった。
体を家の外に引きずり出そうとしたが上に丸焦げのもう1人の男が重なって動かせない。
「う...くっ...!...邪魔____!」
ガラガラッ バギッ
屋根が焼け落ちてくる。
屋内に一酸化炭素が更に充満していく。
「うわぁあああ、嫌だ!嫌だやめろ!
げっほぇ...!うぇ...!」
「畜生...!この火さえ...消せれば...ッ!」
バシッ、バシバシ
ボロッ
「_____っ」
「...腕が...」
...ぐぐっ
「っ...!スタンリー!よかった、生きて_____」
「_____ゴェ"ヨ"ァ"ッ! ェ"オ"ロ"ゴョィ"オ"ッ!」
「_____っ」
ボロボロ
カチャッ
ざ、ざ、ざり、ざ_______
___________________
それが、私が最後に見た彼の姿。
喉が焼け落ち目玉からも火が出ていた。
でも彼は生きていて、必死に何かを伝えようと声にも似つかない声を出した。
そして私は、その場所から一人で去った。
回収できたのは彼の銀のライターだけ。
なんのデザインも施されていないライター。
後日、スタンリーはレイミーによって掘り出され遺体安置所に入れられた。
私はその黒炭を取り戻し、背負って家の駐車場まで何マイルも歩いた。
そして私は、彼をフレッチアに乗せ100マイル先の河川まで運んでいった。
その大きな川に彼を乗せたフレッチアを流し、火をつけ、燃やした。
彼のライターで。
私はその後警察から60000ドルを受け取り探偵事務所を引き続き経営した。
レイミーからコネで有名大学の推薦状をもらったが私は拒否した。
私はこれからこの探偵事務所で生き、死ぬのであろう。
これが私らの、悲愴な人生の終着点である。
____________________
_____10年後 グッボイ・クラブ____
[オレゴン州の皆さん、おはようございます。
MFラジオ司会者のマッコイです。
今朝のニュースから入っていきましょう。
まずは去年から本格的に始まったベトナムへの軍事作戦について__________]
カチャカチャッ
「もぐもぐ____んむ」
「...」
「...なにか御用ですか?」
「その隣の席に置いてるライターはなんだい?」
「...」
「いや、悪いね。
お姉さんがあまりに美人だから話しかけたんだ。だははっ」
「はは、笑えますよ」
「(目は笑ってないがね)」
「...美人だから覚えてるんだよ。
私は客を覚える才能はあるんだ」
「10年前、あんたみたいなきれいな赤毛の女の子がこの店でカニを食ってたはずだ。お父さんとね」
「...へぇ」
「そんときも、こんな朝っぱらからカニを食いに来てよ。
良い親子だと思ったもんだ」
「親父さんは今どうしてる?」
「_____ここにいる」
「...?」
「このライターが見えますか」
「____ここにいるんです」
[終劇]
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