雨が降ったら

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 彼と別れた原因は、彼の浮気だった。  サプライズで彼を驚かせようと当時同棲していた部屋に早めに帰ったその日、彼は知らない女と寝ていた。  後日冷静になったあとで彼を問い詰めると、彼はあっさりと事実を認め、悪びれることもなくこう言った。 「だって奈々、夜誘っても乗ってくれないし寂しかったんだよ。あいつとはその寂しさを埋めるためだけの関係」 「……は?」  呆れてものも言えない。謝罪の一言もないのだ。 「いやだから、本気で好きなのは奈々だけだよ。それじゃだめ?」 「……いいわけないでしょ」 「なに怒ってんの? 悪いのは俺だけ? 奈々にだって原因あるじゃん」 「それはそうかもしれないけど、不満があるなら言ってくれれば……」 「言ったところで、奈々は変わってくれたの?」  何も言い返せなかった。仕事が忙しくて、彼の誘いを断ることも多々あった。  そう頻繁に身体の関係がなくても、私たちは心で繋がっていけると信じていた。  だけど彼は、そうではなかった。  ……もう、この人とはやっていけないのかもしれない。 「そうだね……言われたところで変われなかったと思う。多分私たち、合わないよね……これから、どうしようか?」 「待ってよ、そこまでは言ってないじゃん。俺は奈々が好きだよ。誰よりも好き。奈々だって同じじゃないの? 一緒にやり直そうよ」  ここまで言ってようやく焦り始めた彼を他所に、私は別れを口にした。 「いや……もう、終わりにしよう」  この恋はきっと、お互いを好きなだけでは続かない。  彼がほかの女と寝るのを()めるなんてきっと出来ないし、私にはそれを赦すだけの心の余裕がない。 「……そう、わかった。奈々がそうしたいなら、そう思わせてしまった俺に止める権利はないよ」  あんなに焦っていた割に、彼は意外にもすぐ頷いた。  そう、彼はこういう人だった。  優しいふりをして全てを私に擦り付けて。「もうしない」の一言を、たった今恋人ではなくなった私が1番欲している一言を、絶対に口にしない最低な男。  できない約束はしない、を何よりも大切に扱う男……。  そういうことろが、好きだった。
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