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「なんか大きい声が聞こえた気がするんだけど、大丈夫?」
振り向くと同じ課の先輩、平井さんが、心配そうにこちらを見ていた。
「あ、平井さんお疲れ様です……」
「お疲れ様。最近雨だし帰り遅いし、女の子1人で帰らせるのちょっと心配だったんだよね……何かあった?」
平井さんは近くまで来ると澄んだ瞳で私の顔を覗き込む。
なんとなく落ち着かなくて、彼から視線を逸らし光希の方を見たけれど、彼の姿は消えていた。
「いえ、なんでもないです。ちょっと虫がいてびっくりしただけで……」
「そう、ならいいんだけど。最近変なやつも多いし、今日は駅まで一緒に行こうか」
「すみません、ありがとうございます」
少し先を歩き始めた平井さんの背中を、小走りで追いかけた。
多分平井さんは私の嘘に気づいている。
それでも深くは聞かずにいてくれるのがありがたかった。
「……また雨が降ったら、会いに来るよ」
雨音に混じった光希の声は、聞こえないふりをした。
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