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第一章
周りの空気によどみがないことから、私のほかには、だれもそれに気がついていないと思われた。
ユージが死んだのは三時間目、算数の授業が始まってすぐ。
あいかわらず初夏の光は教室を満たしていたし、いたずら好きなコースケとカズマは、先生の目をぬすんでスマホをいじっていた。
今年から全ての教室にエアコンがついたので、暑い外の空気は、教室の中に入ってこない。
しかし、二階の教室から見下ろせる花だんには、グラジオラスの葉が伸び放題になっており、花のにおいにさそわれたアゲハチョウも何匹か舞っていた。
「イヨさん」
私は、とつぜん先生にあてられ、「はい」と返事をして立ち上がった。
「イヨさんなら、この問題をどうやって解きますか?」
「えっと」と口ごもっていると、となりにすわっているミユからメモがとどいた。ちらりとメモを確かめてから先生を見て、「割合を使って解きます」と答える。
「なるほど。いいですね。ほかに考えがある子はいませんか?」
先生の視線が遠くに向けられたので、私はほっとする。座席にすわると、ミユに「ありがとう」と小声で言った。
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