第十章

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「やつは、見物客(けんぶつきゃく)(まぎ)れこんでるわ」、私はさらに神経(しんけい)を集中する。  アヤノの死の予感(よかん)が強まっていた。やつの(にお)いもし始める。その臭いは、ミユを(まも)ったときに教室で嗅いだものとそっくりだ。 「(いぬい)カスミが、近くにかくれてる……」 「カスミがいるのか?」「こんな人ごみの中で(おそ)うのかよ」「何とか止めなきゃ」  五年B組の仲間(なかま)の顔に緊張(きんちょう)が走った。  私は、目をつむり、五感(ごかん)()ぎすませた。  頭の中が、祭りのお囃子(はやし)の音と、(いぬい)カスミの足音と、山車(だし)のきしむ音で、ごちゃごちゃになる。でも私はその中から、乾カスミが発する音だけを聞き分けようとした。  南西の奥に小さな火が立ったような気がした。乾カスミが山車(だし)へと(せま)っている。 「イヨ。どっちから来るの?」とミユが()いた。  私は、「あっちからよ」と言い、南西(なんせい)を指さした。 「(おれ)も感じる」とリュウタロウが言う。リュウタロウにも、予感(よかん)(とど)いているようだ。  やつは、(やみ)にまぎれてるが、死の予感を(みなぎ)らせ、狡猾(こうかつ)に私たちを(ねら)っているのだ。 .
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