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「やつは、見物客に紛れこんでるわ」、私はさらに神経を集中する。
アヤノの死の予感が強まっていた。やつの臭いもし始める。その臭いは、ミユを守ったときに教室で嗅いだものとそっくりだ。
「乾カスミが、近くにかくれてる……」
「カスミがいるのか?」「こんな人ごみの中で襲うのかよ」「何とか止めなきゃ」
五年B組の仲間の顔に緊張が走った。
私は、目をつむり、五感を研ぎすませた。
頭の中が、祭りのお囃子の音と、乾カスミの足音と、山車のきしむ音で、ごちゃごちゃになる。でも私はその中から、乾カスミが発する音だけを聞き分けようとした。
南西の奥に小さな火が立ったような気がした。乾カスミが山車へと迫っている。
「イヨ。どっちから来るの?」とミユが訊いた。
私は、「あっちからよ」と言い、南西を指さした。
「俺も感じる」とリュウタロウが言う。リュウタロウにも、予感が届いているようだ。
やつは、闇にまぎれてるが、死の予感を漲らせ、狡猾に私たちを狙っているのだ。
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