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「力鉾を引け」と町頭が言う。力鉾の先に着けられた綱が、後ろに向かって引っぱられた。力鉾がしなるように曲がる。丈を低くし、鳥居をくぐらせるのだ。
「もっと引け!」
ぎりぎりと音を立て、力鉾が弓のように引きしぼられる。その間にも、火の礫が山車を襲った。
しばらくして、「力鉾を立てろ!」という町頭の声がひびいた。
私の願いが通じたのだろうか。アヤノを乗せた山車が鳥居をくぐりぬける。すると、火の礫がぴたりと止んだ。
山車は、神社の拝殿の前まで引きこまれた。
「山車が、連発花火で狙われました」
町頭が、神社の人に報告している。
「それは危なかったですね。すぐに警察に連絡しましょう」
神社の人は、そう言うと、鳥居の脇にいる警察官を呼んだ。
「ちがいます。花火じゃありません! ショウタが頬を切る怪我をしたんですよ。花火で頬が切れますか?」
ミユが大声で反論する。
「これは花火じゃない。宮司さんを呼んでいただけませんか?」
リュウタロウも大声で訴えた。しかし立ち会った神社の人も、警察官も、私たちの話を聞き入れてくれない。
しばらくすると、二人の警察官が山車の前までやってきて言った。
「警備の数を増やし、このようないたずらが起きないように見張ります。あとは私たちにまかせて、川への押し出しまで、祭りを続けてください」
今起きていることは、容易いことではない。このまま祭りを続けても大丈夫なのだろうか。私は、とても不安になった。
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