第十一章

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「私はそのころ、まだ十二歳になったばかりでした。ある日、セイノシンという町の若い男が、事故(じこ)()くなったんです。(せみ)が鳴いていましたから、おそらく、七月か八月だったと思います。事故(じこ)の後に正成(まさなり)さんが言ったんです。『次は消防団長(しょうぼうだんちょう)のタカシが殺されるかもしれない』と。正成(まさなり)さんは、不思議な能力をもっておられました。未来(みらい)に起きる死を、予見(よけん)できるのです。ですから、二匹の(りゅう)と一緒にタカシの後をこっそりつけたんです。度肝(どぎも)()かれましたよ。当時(とうじ)、町一番の力持(ちからも)ちだと言われていたタカシが、背の低い女の子に(つか)まったかと思うと、あっという間に空の高いところに(はこ)び去られたのですから。私たちはすぐに(りゅう)に乗って後を()いました」  里織部(さとおりべ)はそこまで話すと、巫女(みこ)(はこ)んできたお茶をすすった。そしてその巫女(みこ)を横に(すわ)らせて言った。 「この子は神社(じんじゃ)巫女(みこ)ですが、実は龍使(りゅうつか)いです」 「(むすめ)のスズカと言います。C小学校の六年生です。よろしくね」 「あ、それと」と言うと、里織部(さとおりべ)()り返ると、(まく)(おく)に向かって「入りなさい」と言った。  小学校中学年くらいの、初々(ういうい)しい少年が、スズカの(となり)(すわ)る。  そして「息子(むすこ)の、ハクオウと言います。C小学校の四年生です」と言って一礼(いちれい)した。 「この子は(りゅう)。……あなたたちも話を聞いていなさい」と里織部(さとおりべ)が言うと、二人は「はい」と落ち着いた声で返事をした。 .
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