3197人が本棚に入れています
本棚に追加
/154ページ
「私はそのころ、まだ十二歳になったばかりでした。ある日、セイノシンという町の若い男が、事故で亡くなったんです。蝉が鳴いていましたから、おそらく、七月か八月だったと思います。事故の後に正成さんが言ったんです。『次は消防団長のタカシが殺されるかもしれない』と。正成さんは、不思議な能力をもっておられました。未来に起きる死を、予見できるのです。ですから、二匹の龍と一緒にタカシの後をこっそりつけたんです。度肝を抜かれましたよ。当時、町一番の力持ちだと言われていたタカシが、背の低い女の子に捕まったかと思うと、あっという間に空の高いところに運び去られたのですから。私たちはすぐに龍に乗って後を追いました」
里織部はそこまで話すと、巫女が運んできたお茶をすすった。そしてその巫女を横に座らせて言った。
「この子は神社の巫女ですが、実は龍使いです」
「娘のスズカと言います。C小学校の六年生です。よろしくね」
「あ、それと」と言うと、里織部は振り返ると、幕の奥に向かって「入りなさい」と言った。
小学校中学年くらいの、初々しい少年が、スズカの隣に座る。
そして「息子の、ハクオウと言います。C小学校の四年生です」と言って一礼した。
「この子は龍。……あなたたちも話を聞いていなさい」と里織部が言うと、二人は「はい」と落ち着いた声で返事をした。
.
最初のコメントを投稿しよう!