第一章

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 ◇◇◇  終業のチャイムが鳴り、校舎(こうしゃ)を出るとミユがかけ()ってきた。 「イヨ、何か変だったわよ。(なつ)風邪(かぜ)でもひいた? それともアレルギー?」  ミユは私の前に(まわ)りこみ、目を見つめて()いてきた。 「何でもないって言ってるでしょ」 「本当に?」  私がうなずくとミユは、「よかった」と言ってほほえみ、「ねえねえ、明日うちに()まりに来ない?」とさそってきた。  私が「いいよ」と答えると、ミユはおどり上がって(よろこ)んだ。  ◇◇◇ 「イヨ。今日は早かったわね」  母が台所仕事(だいどころしごと)をしながら言った。  私は、四年生のときから文芸クラブに入っていたけれど、最近は早退(そうたい)ばかりで、ほとんど顔を出したことがない。幽霊(ゆうれい)クラブ員だった。  私は低学年のころ、喘息(ぜんそく)とアトピー性皮膚炎(ひふえん)(なや)まされた。体力がおとろえ、このまま死んでしまうのではないかと思う夜をすごしたこともある。  そんな私には、ほかの人にはない才能(さいのう)があった。それに気づいたのは小学校三年生の夏休み、祖父(そふ)()くなったときだ。 .
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