彼女が掛ける“彼”の為の電話

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彼女が掛ける“彼”の為の電話

「もしもし、お久しぶりです。」 仕事の休憩中に屋上の日陰のあるたまに昼寝するソファに座り電話をかけたら2回目のコールで出た。 『もしもし、お久しぶり。』 「お元気ですか?」 『えぇ、いつもどおりね。』 品の良い微笑み声の中に少しの影を感じる。 まぁ、仕方ないことだろう。 とくに今年は7年目なんだから。 「お時間どうしますか?」 『いつも同様で10時でいいかしら?』 「えぇ、私は大丈夫です。」 『お仕事は大丈夫?』 「事前にお休みを頂いているので大丈夫です。」 『いつも悪いわね。』 「いえ、こうやって決めた日じゃないとキリがなくなってしまうので、」 『……、そう、ね。』 でも本当のこと。 “あの時”は連日付近に通い詰めて周りからかなり必死に止められて記憶がある。 だからこの二日間しか行かないと自分で決めている。 「では、また当日に。帰りにまた珈琲とケーキ食べましょうね。」 『えぇ、楽しみにしてるわ。』 そう言って電話を切ると無意識に緊張していたのか背もたれに凭れ、大きく息を吐いた。 「……。」 絶対に“お母様”の方が無理をしている。 「あ、……。」 あー、やだやだ。 「(今年も、だ。)」 鼻が痛い、頬の上の方がこみ上げるように痛い、手足の指先が緊張のせいなのか汗で冷たい、下瞼の方が熱い、そして何か零れる。 唾もなく息を飲む。 飲んだ瞬間に大粒の涙が少し零れた。 あーあ、メイク直さなきゃ。 そう思い目元をティッシュで押さえ、パレットからプラムカラーのアイシャドウを指で取ろうとしたらスマホが揺れた。 「?」 見ると神取先生からのメッセージだった。 『今日も、お茶しませんか?』 いつもと同じ内容だが少しだけクスッと笑ってしまった。
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