3人が本棚に入れています
本棚に追加
その日、名古屋サカマタの宿舎では大祝勝会が催された。
皆、普段のストイックな食事メニューとは違った豪華な食事に舌鼓を打つ。その宴の中、監督の佐久間は手をパンパンと叩いて皆の注目を集めた。
「いいかー? ちょっと話がある、皆は食べる手を止めて聞いてほしい」
今日の勝利を称える挨拶ならもうしたじゃないか。皆は首を傾げた。佐久間監督の横には仁がどこか悲しそうな顔をしながら立っていた。
佐久間監督は皆に向かって叫んだ。
「えーっと、長らく皆と一緒にプレイしてきた朝倉仁だが…… 本日を以て、この名古屋サカマタエイトJrを退団することになった!」
場が一気に恐慌状態となった。仁はこの名古屋サカマタの絶対的なキャプテンにして支柱。全員からの信頼も厚い。それがどうしていきなり退団するというのか。
皆、信じられずに困惑するばかりであった。
仁はポケットからキャプテンマークを出した。佐久間監督は続けた。
「皆も驚いていると思う! 俺も仁から聞いたのは東海地区大会が始まる直前で驚いた! 仁はお父さんの仕事の都合で『フランス』に行くことになったんだ。もう、明日の飛行機の便で出発だ!」
皆は更に驚いた。高尚が今にも泣きそうな涙目になりながら手を挙げる。
「おい! じゃあ全国大会は……」
「仁抜きで戦うことになる! 知っての通り仁はキャプテン! そのような訳で、次のキャプテンを任命する! 高尚、こっちに来るんだ」
高尚は目に涙を浮かべながら仁の前に立った。仁はキャプテンマークを高尚に差し出した。
「たっちゃん。後、頼むわ」
高尚は困惑するばかりで手が動かない。仁は高尚の手を握り、強引にキャプテンマークを握らせた。佐久間監督はそれを確認し、皆に向かって叫んだ。
「これから、名古屋サカマタエイトJrは富山高尚をキャプテンとしたチームで再出発をする! これまでの朝倉仁体制から富山高尚体制になり大変だし混乱すると思う! みんなで高尚を支えてやってくれ! 俺からの報告は以上!」
佐久間監督はいつの間にか持っていた花束を仁に渡した。
「これまで、キャプテンの役目。ご苦労だった…… お前と一緒に全国大会に行けないのは残念だと思うが、仕方ない」
「……これまで、ありがとうございました。フランスでもサカマタ魂を持ってサッカーを続けます」
「そうか、頑張れよ」
仁は涙を拭い、パーティー会場である宿舎を後にした。宿舎の外には仁の父親である勇(ゆう)が車をアイドリング状態で待機させ、仁の帰りを待っていた。仁が助手席に乗った瞬間、勇は尋ねた。
最初のコメントを投稿しよう!