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確かに、おかしな旅だ。
観光地を巡ってはいるが、ガイドがいるわけでもなければ何か特別な特典があるわけでもない。
ただ、しおりを渡され、観光地にほったらかしにされるのだ。
宿も食事もたいしたことはない。
だが、僕は旅行を楽しみに来たわけではない。
きっと、内容が良くないから、このツアーは客が集まらないのかもしれない。
でも、そんなことすらも、僕にはどうだって良いことだ。
僕はいつものように睡眠薬を飲み、眠りに就いた。
*
「では、出発します。」
次の日も、僕は同じ車に乗せられ、そして、眠っている間に次の場所に移動した。
昨夜は珍しく熟睡したというのに、良く眠れるものだと不思議な気がした。
ここのところ、僕はずっと眠れなかった。
だけど、この旅行で僕はやたらと眠っている。
「それではまた後でお迎えに参ります。」
やはり、昨日と全く同じだった。
しおりを渡され、僕は観光地に置き去りにされる。
しおりの通りに、観光地を巡り、そして、土産屋でまたキーホルダーを買った。
昼食を食べている時…
僕の脳裏にふと疑問が浮かんだ。
昨日いたのは、確か、京都のはずだ。
そして、今いる場所はおそらく長崎。
それにしては、あまり時間が経っていない。
移動中、僕は眠ってはいたけれど、それほど長時間ではないはずだ。
なんせ、京都を出たのは10時過ぎ…
そして、ここに着いたのは昼前だ。
(おかしい…)
しかし、そんなことを訊く気にはなれなかった。
僕は、今、まともだとは言えない。
何か思い違いをしているのかもしれない。
そう自分に言い聞かせ、それ以上は考えないことにした。
*
「では、出発します。」
三日目もまるで同じ。
だが、僕の気持ちだけは多少違っていた。
今日連れて行かれる場所がどこかはわからないが、僕はその場所で人生を終わらせるのだから。
そんなことで、その日は、移動中、全く眠れなかった。
少し走ると、周りは靄に包まれた。
「靄がすごいけど、大丈夫なんですか?」
「はい、御心配には及びません。」
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