怒った顔

3/4
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
 翌朝の教室。  三年生になると、この女子高では、ほとんどの生徒が進学にむけての勉強を本格化させる。授業数もかなり減って、自習の時間が増えた。私は進学はやめたものの、就職試験を受けるための勉強はやはりしなければならない。しかし、身が入らない状態が続き、少し働くことにした方がいいのではないかと思って、思い切ってそば屋のアルバイトに応募した。店の人員は足りていないらしく、すぐに採用になった。  三年生のなかで、進学しない人は八人しかいない。三年から進学コース別に振り分けられたクラスで、就職希望者は国立文系の志望者向けのクラスに入れられた。このクラスの中で就職希望者は私一人だった。  本当は誰も感じていないかもしれない溝を、一人意識してしまう。  もともと大人しいといわれる性格なので、自分から友だちをつくることはまれだったが、それでも人の輪の中にはいた。よくある女子グループの中の目立たない子の類なのだ。  けれど、そういった生徒たちとも別行動になることが増えた。学校のあと、部活の代わりに予備校に通うようになった生徒も多い。  アルバイトに応募したのは、就職することに決めた不安感を払拭したいのと、手持ち無沙汰になったような宙ぶらりんな感覚をどうにかしたいというのがあった。朝礼の時間まで、自分の机で受験参考書や問題集を開いている人が増えた。意識しなくとも、赤本を机の上に置いている人もいるので、誰がどういう大学を志望しているのかおおまかには分かってしまう。  何となく目を逸らして窓の外の薄い空の色を見ているうちに、怒りを滲ませた昨日の淳の顔がよみがえった。  思わず口角が上がっていた。  あれはとてもきれいな横顔だった、と思う。 「理沙ちゃん、おはよう」  前の席の堀江三奈が通学バッグを机の上に音を立てて置きながら言った。  この音を立てる三奈の動作は、最初のうちは怒っているのかと思って気になったが、今は他意はないのだと分かっている。  私は三奈を見上げた。 「うん? どうしたの」 「ううん。あのさ、怒っている人って嫌だなとずっと思っていたけど、いい怒り顔っていうのもあるよね」 「何々? 何の話?」  三奈は即座に反応した。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!